成人医療への移行(トランジション)について

  • 2021.08.30

みなさんこんにちは

三鷹駅こころえがおクリニック(仮)山田佳幸です。

当院は三鷹駅南口徒歩3分の精神科・心療内科のクリニックです。

8月後半ですが、まだまだ暑い日が続き、コロナも猛威を振る中、ブログを見ていただき、ありがとうございます。

今回は成人医療への移行について(トランジション)説明させて頂きます。

★トランジションとは 

医療におけるトランジションとは、小児医療から成人への移行医療という意味でつかわれており、キャリーオーバーなどと表現する場合もあります。

精神科・心療内科におけるトランジションとは、小児科や児童思春期精神科にて治療を受けていた患者さんが、その医療機関を卒業し、成人専門の精神科・心療内科にて治療を継続してゆくことを言います。

 当院では、主に、注意欠如多動症、自閉スペクトラム症などの神経発達症(発達障害)や知的能力障害(知的障害)の方々のトランジションに力を入れてゆきます。

 トランジションの問題は、精神科や心療内科領域に限ったことではなく、身体疾患でも成人医療への円滑なトランジションが困難となることが生じています。そのため、日本小児科学会は、「小児は小疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」(2014年)をまとめ、個々の患者さんがそれぞれに相応しい成人医療を受けることができるための基本的な考えを提示しております。

この提言の中では、知的障害・発達障害を有する患者さんを診療するにあたり、医療者側に障害に関する知識や対応のスキルが求められるとともに、社会が患者さんの抱える問題点についてより理解を深める必要があると述べられています。

★トランジションの問題

精神科・心療内科では、成人医療からのトランジションが円滑に進んではおりません。具体的な取り組みができていない地域がほとんどだと思います。また、成人医療に移行ができたとしても、それまで診断がついていた発達障害について、「診断基準をみたさないから発達障害ではない」と治療をしてもらえないケースや、医療機関側が発達障害の存在自体を認めようとしないことなどもあり、治療が円滑に進まないことや、それまでのサポートの継続が困難になることだけではなく、精神障害者手帳を維持してゆくことや障害年金などを継続して受給することに問題が生じることもあります。

 なぜ、このような問題が起きているのでしょうか。私個人の見解になりますが、いくつかの理由があるのではないかと考えてみました。

これまでは、児童思春期の精神科医療は成人の精神科医療とは一線を画した、独立した診療科であるかのような構造があったことが理由の1つであると思われます。そのため、一般の成人を診療する精神科医が小児科、児童思春期の精神疾患の患者さんを診療することや成人後や高卒後の患者さんを引き継いで診察することは稀でした。

私が精神科医として仕事を始めた頃も精神科と児童精神科は別ものという雰囲気がありました。恥ずかしながら、私もそれが普通だと思っておりました。当時は成人精神科を中心に精神科医療に携わろうと思っていたため、児童精神科で診察や治療が必要な自閉スペクトラム症、注意欠如多動症などの神経発達症の治療に携わることはないと思っておりました。

 しかし、神経発達症に対して早期介入を行うことの大切さが盛んに述べられるようになってからは、以前に比して小児科、児童思春期精神科に受診に至る患者さんが増えた印象を受けます。ただ、一般の精神科と異なり、児童思春期の神経発達症を診察する医療機関は少ないため、たくさんの患者さんが数少ない場所に集まってしまうため、その医療機関で全ての方の対応をすることが困難な状況となっています。(ここ10年ほどは、神経発達症にて受診をする方の数がかなり増えていると思います。以前、児童精神科で勤務している友人に話を聞いた際は、小児の神経発達症を専門に行っている外来では、初診は数か月待ちや半年待ちがざらのようで、成人に近い患者さんをどのように成人の医療機関に移行してゆくかが大きな課題となっていると聞きました)。

さらに、近年、注意欠如多動症や自閉スペクトラム症などの神経発達症の理解がさらに進み、成人後も特性が継続することがわかってきました。これらの理由から、徐々に成人精神科での治療継続の必要性が高まってきたと思われます(繰り返しますが、個人的な見解です)。

成人精神科でもトランジションの問題もクローズドアップされることが多くなり、最近は精神科の専門雑誌でも”成人医療への移行の課題”と題した特集が組まれるようになりました(精神科治療学の2021年6月号の、「■特集 児童・思春期の精神医療・リエゾン領域におけるトランジション-成人医療への移行の課題-」です)。まだまだ時間がかかると思いますが、このトランジションの問題が少しでも早く改善してゆくことを期待してゆきたいです。  

★成人医療に移行後に注意すべき点

治療にあたる医師が両方の診療科である程度の期間診療をする経験ができるとベストなのですが、中々しい場合が多いです。

私は幸運なことに、児童思春期の診療科のある大学で勤務できたことや、児童思春期病棟のある公立病院で働くことができたことで、成人の精神科医療と児童・思春期の精神医療両方をしっかりと学ぶことができました。そのため、比較的早期にこの問題を感じることができました。また、診療をする中で、小児科、児童思春期精神科の先生が成人精神科の先生達に対して思うこと、お願いしたいこと、またその逆もこれまでの経験から何となく、わかる気がします。これらの経験を活かし、児童精神科医療と成人精神科医療の橋渡しが少しでも円滑になるよう、お手伝いをしてゆきたいと思っております。

また、小児科、児童思春期精神科から成人の精神科に通院を変更する際、患者さん、ご家族の方は長い期間、慣れ親しんで通院していた医療機関から、全く知らない新しい医療機関に通院をしなければならないため、特に初回はかなり不安と緊張を感じながら来院される方がほとんどです。来院し、少しでも安心できるような環境や職員の対応、診察など、クリニック側で工夫できることは積極的に行ってゆきたいと思います。

しかし、当院はあくまで一般成人外来のため、診察時間に限りがあります。当院に移った直後は違和感を覚える場合があるかもしれません(小児科、児童精神科より診察時間は短いです)。

小児科・児童思春期精神科ではどちらかというと周囲が特性を理解し、どのようにサポートしてゆくかが相談事の中心となることが多いため、保護者主体の診療となることが多いかと思われます。成人精神科では、本人がいかに病気や特性を理解し、対処を取ってゆくかが重要なことの1つとなってゆきます。そのため、自立を促す意味でも本人主体の診療となることが主になります。しかし、その方の状況、状態によりけりなため、場合によっては保護者主体の診療を継続し、徐々に本人主体の診療となるよう、工夫をしてゆきたいと思っております。

★最後に

神経発達症や知的能力障害は生来の障害であり特性を抱え生活をしてゆくためには、患者さんの年齢と課題に合う、適切な医療機関にスムーズにつながることが望ましいと思われます。しかし、患者さんやご家族が成人医療機関へ移行することを決意しても、医療側の理由で妨げられることがないようにしなければならないと思っております。

本来は、スムーズなトランジションのためのシステム構築などがあれば、患者さんも安心して医療を続けることができるのですが・・・・。

現時点で私ができることは日々の日常診療をしっかりと行ってゆくことだが思っております。

トランジションが必要な患者さんを少しでも多く診療をすることで、紹介をいただいた医療機関ではその分、新たな患者さんの診療をすることができるようになるため、初診待ちの時間が短くなり、結果的に地域医療の貢献につながっていくのではと思っております(私の勝手な妄想です)。

これまでの児童思春期、成人精神科の両方の診察、治療経験を活かし臨機応変な対応を行い、トランジションが円滑にできるように、日々の診察を行ってゆきたいと思います。

ひっそりinstagramをやっています。ご覧ください。

https://www.instagram.com/mitaka_kokoro_egao/

皆様の心が少しでも笑顔になりますように。

PAGE TOP