精神疾患における栄養素やサプリメントについて(総論)
- 2025.01.05
精神疾患における栄養素やサプリメントについて(総論)
みなさんこんにちは。
三鷹駅こころえがおクリニックの山田佳幸です。当院はJR中央線 三鷹駅南口徒歩3分の東京都多摩地区にある精神科・心療内科を標榜しているクリニックです。三鷹市、武蔵野市の方をはじめ、周辺の市区町村の方や、神奈川県、埼玉県などからも来院いただいております。
新年あけましておめでとうございます。
2025年はへび年ですね。
小ネタになりますが、WHOや医師会、大学病院などの大きな組織のロゴには蛇が巻き付いた杖が入っているます。これはStar of Life(生命の星)と呼ばれるデザインです。みなさんも1度は目にしたことがあるのではないでしょうか?
↑これはWHOのロゴになります。
このStar of Lifeはアスクレピオスの杖といって、昔から医療・医術の象徴として世界的に広く用いられているシンボルマークです(ちなみにジョジョの奇妙な冒険に出てくるTG大学病院にも蛇のマークがついています)。
蛇と杖のことを説明すると今回のブログがそれだけになってしまいますのでヘビネタはこの辺にしておきます。
前置きが長くなりましたが、2025年も皆様にとってよりよい巳来(みらい)となり、えがおが少しでも増えるよう、お祈りしております。
では、本題に入りたいと思います。今回は「精神疾患における栄養素やサプリメントについて(総論)」についてです。
前回は“血液検査・心電図検査”について説明させていただきました。
詳しくは前回のブログをご覧ください。
採血検査・心電図検査について – 三鷹駅こころえがおクリニック ブログ
これまで精神疾患と栄養についてはあまり重要視されることはありませんでした。
しかし最近の研究では精神疾患は身体疾患と同様、食生活や運動などの生活習慣が治療上も重要な役割を果たすことやサプリメントの有用性が沢山の論文で述べられるようになりました。
よくよく考えてみれば当たり前なのですが、脳も体の一部であり、口から摂取した栄養素は適切な食生活を送る上で大切ですよね。
そのため、今回はその栄養素について説明を行ってゆきたいと思います。
元々は今回のブログで精神疾患と栄養関係のことと、各疾患についてそれぞれ説明しようと思っておりましたが、調べてみると、それぞれの疾患での注意点など、かなり情報量が多かったため、今回は総論的なことについて説明をし、順を追って主な精神疾患と栄養素について説明を行ってゆきたいと思います。
★注意点★
サプリは食事やくすりの替わりにはなりません。食生活やサプリメント、運動だけでは精神疾患の治療は成り立ちません。その方の状態や状況によって精神療法、薬物療法、環境調整などが必ず必要になり、それがメンタル不調の主な治療法です。
★現代の食生活の問題点★
現在の日本では、食料が摂取できず、飢餓で苦しむことはほぼありません。逆に豊富にあり、食生活の欧米化が近年急速に進んだことで、栄養摂取の偏りが起き、それによる問題が生じています。
「健康日本21(第二次)分析評価事業」では、現代の平均的な日本人の食事は炭水化物56%、脂肪29%、蛋白質15%となっております。アメリカでは炭水化物50%程度、3分の1が脂肪、蛋白質は15%とほとんど差がなくなっております。
また、魚の摂取量も減少傾向のため、青魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸(EPA・DHA))の摂取自体も減っております。
このため、メンタル不調の方に限ったことではありませんが、体重、脂質異常、耐糖能異常(血糖の異常)、ビタミン・ミネラルといった微量栄養素の不足などが一昔前より起こりやすい状況です。
ではどのような食事をとることが健康的な食事といえるのでしょうか?
教科書的には新鮮な野菜、果物、ナッツ類、魚介類などを十分に摂取し、赤身肉の摂取は適量に抑え、加工食品や精製砂糖、カロリーの高い食品はあまり食べない方がよいと言われています。地中海食などもよいと言われております。
しかし、まあ、これを定期的に続けるというのは中々大変です。たまにはカロリーの高いものや、おいしいものも食べたいですよね。
また、メンタル不調があり、食欲がない場合や意欲が低下している場合など、これらの食事を定期的に意識し摂取することは難しいことが多いです。
出来れば不足しがちな栄養成分に対しては栄養食事指導や医薬品・サプリメントなどを併用し、栄養を補充することが有用であると思います。
あまり栄養補充にこだわりすぎると治療が逆に進まなくなり、本末転倒の結果になりかねません。
特にサプリメントの過剰摂取も注意をしなければいけません。
中には肝障害や腎障害など、採血検査でも明らかに数値の医療が出ることがあります。自己判断でサプリを摂取しすぎることもお控え下さい。
適量が大切です。多く摂取したからより良くなるという訳ではありません。
食生活に関するパンフレットが診察室にも置いてありますのでご自由にお持ち帰りください。
*医療機関からの紹介でしか購入が出来ないサプリメント(日常生活に不足しがちな栄養(EPA、亜鉛、ビタミンD,葉酸・ビタミンB1・B2・B6・B12が1つのサプリとなったもの)の補給を目的としたサプリメントのお知らせのパンフレットもあります。
★食事からの栄養補助が難しい場合(サプリメントなどの補助的な摂取が比較的有用な方)★
栄養素はなるべく食事からとった方が好ましいと思います。しかし、さまざまな理由で十分に栄養素が摂取できない場合はサプリメントも有用であると思います。
例)
・栄養の偏り、食生活の乱れが目立つ方
・魚の摂取が少ない方
・多忙なため、インスタント食品などの簡単な食事が多い方 など
上記の方はサプリ摂取を検討してもよいかもしれません。
また、そもそもメンタル不調で食事が十分にとれない場合にも食事+サプリという選択肢は栄養バランスが崩れにくいという意味では有用な選択肢であると思われます。
★主な栄養素についての説明★
ここからは主な栄養素について説明します。
★n-3系多価不飽和脂肪酸
n-3系多価不飽和脂肪酸のうち、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は体内ででは作ることが出来ない不飽和脂肪酸です。
●EPA(エイコサペンタエン酸)
EPAは、n-3系多価不飽和脂肪酸の一種で魚の油に多く含まれております。
EPAの働きとしては、体内の免疫反応の調整、アレルギー疾患・高血圧・動脈硬化・脂質異常症・脳卒中・心筋梗塞・炎症性症状の予防と改善に効果を発揮します。また、血液をさらさらにする働きがあるため、血栓症の予防が期待できます。
メンタル方面ではEPAを摂取することで過剰なストレスによる脳の炎症を抑えたり、脳を健康に保つ神経栄養因子の働きを高める効果が報告されています。
過剰なストレスを感じると脳の炎症が起きてしまうため、その炎症を抑制しくれるのがEPAになります。
EPAが多く含まれる食品 |
青魚(サバ、イワシ、サンマ、ニシン、マグロ、ブリなど) |
*摂取不足
· 血栓ができやすくなり、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などのリスクが高まる可能性があります。
· 脂質異常症のリスクが高まり、動脈硬化を進行させる可能性があります。
· アレルギー疾患や関節リウマチなどの炎症性疾患のリスクが高まる可能性があります。
· メンタル面ではうつ症状やキレやすいなどの精神的な不調やその他、肌荒れ、免疫力低下などにも影響する可能性が指摘されています。
*過剰摂取
血液凝固を抑制する働きがあるため、過剰に摂取しすぎると血が止まりにくくなる可能性があります。また、降圧薬(血圧を下げるお薬)と併用すると血圧が低下する可能性があります。
●DHA(ドコサヘキサエン酸)
DHAも魚に多く含まれる栄養素です。
DHAには体内の免疫反応の調整、脂肪燃焼の促進、血管壁の収縮、血小板の凝集に関わる等のさまざまな働きがあり、アレルギー疾患・高血圧・動脈硬化・脂質異常症・脳卒中・皮膚炎の予防と改善にも効果が期待できる可能性があります。
また、脳の神経細胞の情報伝達をスムーズにする働きがあり、記憶力や言語能力などの認知機能、行動能力にも好影響をもたらすといわれています。
DHAが多く含まれる食品 |
青魚(サバ、イワシ、サンマ、アジ、ブリ、マグロ、カツオ)、ウナギ、鮭、いくら、ハマチなど |
*摂取不足
DHAは脳細胞の活性化に関わる栄養素のため、不足すると記憶力・学習能力が低下する可能性があります。
·うつ症状、気分の落ち込み、不安感など、精神的な不調に影響を来す可能性があります。また、記憶力、学習能力、集中力に影響を来す可能性があります。
· 視力の発達遅延や、加齢による視力低下の進行などが懸念されます。
· 血栓ができやすくなり、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などのリスクが高まる可能性があります。
*過剰摂取
DHAはEPAを含む魚油や血液凝固を抑制する働きのある健康食品・サプリメントと併用すると出血が止まりにくくなることがあります。
また、DHAは血圧を低下させる可能性があるため、血圧降圧剤と併用すると血圧が過度に低下するおそれがあり注意が必要です。
糖尿病の治療薬を飲んでいる場合、DHAは血糖値を上昇させることがあるため、薬の効果が弱まる場合があります。
●葉酸、ビタミンB群、ビタミンD
葉酸はビタミンB群の水溶性ビタミンであり、ビタミンB12と共に赤血球を作る役割があります
また、葉酸やビタミンB群、ビタミンDなどの栄養素はセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどといった、うつと深い関係のある脳の神経伝達物質の生成を促します。
葉酸が多く含まれる食品 |
鶏レバー、モロヘイヤ、ブロッコリー、ホウレン草、春菊、アスパラガス、枝豆、いちごなど |
ビタミンDが多く含まれる食品 |
いわし、鮭、うなぎ蒲焼、しらす干し、卵黄、きくらげ(乾燥)、干ししいたけなど |
ビタミンB6が多く含まれる食品 |
かつお(刺身)、鮭、鶏むね肉、納豆、にんにく、バナナなど |
ビタミンB12が多く含まれる食品 |
あさり、しじみ、赤貝、さんま、牛レバー、プロセスチーズなど |
*摂取不足(葉酸)
通常の食生活で不足することは稀です。摂取量が少ない状態が続くと、貧血や口内炎、皮膚異常、動脈硬化などを引き起こす可能性があります。
*摂取不足(ビタミンB6,12)
免疫力低下、皮膚炎、絶縁、口内炎、貧血や成人の場合、うつ状態など神経系に影響をきたすことがあります。
*摂取不足(ビタミンD)
カルシウムの吸収低下や特に高齢の場合は腎臓の活性化低下や骨粗しょう症などにつながるため、注意が必要です。
*過剰摂取(葉酸)
サプリ等で過剰に摂取すると亜鉛の吸収障害を起こす可能性があります。
*過剰摂取(ビタミンB6)
ビタミンB6はサプリメントなどで大量に摂取し続けると、以下の健康被害が報告されています。
感覚神経障害(手足のしびれや痛み、感覚の麻痺など)、皮膚症状:(皮膚の発疹、かゆみ、光線過敏症(日光に過剰に反応する)など)、消化器症状:(吐き気、嘔吐、食欲不振など)が起こることがあります。
*これらの症状は、ビタミンB6の摂取を中止することで改善することが多いです。
*過剰摂取(ビタミンB12)
ビタミンB12の過剰摂取による健康被害の影響はほとんどありません。
*過剰摂取(ビタミンD)
普段の食事では過剰摂取の心配はあまりありません。しかしサプリメントなどで過剰に摂取しすぎると高カルシウム血症や腎機能障害などを引き起こす可能性があります。
●亜鉛
亜鉛は味覚正常に保ったり、皮膚や粘膜の健康維持のサポートなどの働きがある必須ミネラルです。
メンタル関係では記憶やストレスに深くかかわる海馬という場所に多く存在しています。うつの方は亜鉛不足が多くみられるという報告もあります。
亜鉛を多く含まれる食品 |
牡蠣、豚レバー、牛レバー、鶏レバー、牛肉:(赤身肉)、うなぎの蒲焼き、小麦胚芽、ナッツ類、豆類(大豆、納豆、豆腐)、玄米、ごま、プロセスチーズ、卵黄など |
*摂取不足
精神症状: うつ、イライラ、集中力低下など。
そのほかに、味覚障害、皮膚炎、脱毛、食欲不振、性機能不全、免疫力低下、貧血、爪の異常、口内炎などを生じる可能性があります。
*過剰摂取
通常の食事から亜鉛を過剰に摂取することはほとんどありませんが、サプリメントなどで高容量の亜鉛を摂取していると、吐き気、嘔吐、胃痛、腹痛、下痢、食欲不振、頭痛などが生じることがあります。過剰摂取が慢性的に続くと、免疫機能の低下、貧血、HDLコレステロール低下、手足のしびれ、感覚麻痺などが生じる可能性があります。
●タンパク質
タンパク質は炭水化物・脂質とともに3大栄養素と呼ばれるエネルギー源のひとつです。
タンパク質は20種類のアミノ酸で構成されており、体内で合成できない必須アミノ酸(9種)と、体内で合成できる非必須アミノ酸(11種)があります。タンパク質は消化管を通過する間にさまざまな消化酵素の働きで最小単位のアミノ酸に分解され、肝臓に送られます。血液とともに全身に運ばれたアミノ酸は筋肉、内臓、皮膚、髪の毛、骨などを構成します。消化吸収、代謝をサポートする酵素、更には免疫力を支える抗体など、生命の維持に欠かせない様々な機能において重要な役割を担っています。
トリプトファン、チロシン、フェニルアラニンなどの必須アミノ酸は神経の活動の伝達に不可欠が神経伝達物質を作ります。
代表的な神経伝達物質の説明をします。
・セロトニン: 気分の安定、精神の安定、睡眠、食欲などに関与します。
・ドーパミン: 快楽、意欲、モチベーション、運動機能などに関与します。
・ノルアドレナリン: 集中力、注意力、覚醒、ストレス反応などに関与します。
・GABA(γ-アミノ酪酸): 不安の軽減、リラックス効果、睡眠の質の向上などに関与します。
精神科、心療内科で使用する薬剤もこれらの神経伝達物質に作用する薬剤が多いです。
*摂取不足
細菌やウイルスなどへの抵抗力・免疫力の低下、筋肉量減少・筋力低下、皮膚の美しさや髪のしなやかさが失われることや、貧血の原因となることなどがあります。
特に、神経伝達物質の生成にアミノ酸が不可欠であるため、アミノ酸不足は上記の神経伝達物質が十分に生成されにくくなり、気分の落ち込み、イライラなどのメンタル不調につながる可能性があります。
*過剰摂取
腎臓への負担、肥満、腸内環境の乱れなどが生じる可能性があります。
蛋白質を多く含む栄養素 |
肉類: 牛肉、豚肉、鶏肉(種類や部位によって蛋白質含有量や脂質含有量が異なります) マグロ、カツオ、サケ、イワシ、サンマ、卵、牛乳、チーズ、ヨーグルト、豆腐、納豆、豆乳など |
文献
・「健康日本21(第二次)分析評価事業」https://www.nibiohn.go.jp/eiken/kenkounippon21/index.html
・大塚製薬栄養素カレッジ https://www.otsuka.co.jp/college/
・明治ホールディングス 健康・栄養 よりhttps://www.meiji.com/sustainability/contribution/health_nutrition/
・健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/index.html
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
・臨床に役立つ精神疾患の栄養食事指導 功刀浩/阿部裕二 編著 講談社
・うつ病の栄養学的治療 功刀浩 精神科治療学30(5):593-598
・精神栄養学 とくにうつ病との関連について 功刀浩 臨床栄養121(4):488-493
・現代の食事における栄養学的問題 功刀浩 精神医学66(3):242‐246
・栄養素と脳機能 小川 眞太朗 精神医学66(3):248-255
以上、今回は「精神疾患における栄養素やサプリメントについて(総論)について説明をしました。
次回は統合失調症、気分障害(うつ病、双極性障害)の栄養素について説明してゆきたいと思います。
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皆様の心が少しでも笑顔になりますように。