うつ病と双極性障害の栄養について
- 2025.07.20
うつ病と双極性障害の栄養について
みなさんこんにちは。
三鷹駅こころえがおクリニックの山田佳幸です。当院はJR中央線 三鷹駅南口徒歩3分の東京都多摩地区にある精神科・心療内科を標榜しているクリニックです。三鷹市、武蔵野市の方をはじめ、周辺の市区町村の方や、神奈川県、埼玉県などからも来院いただいております。
今年は昨年以上に暑いですね。
私は昨年さぼっていたジョギングを再開しましたが、その影響等で少し日焼けしております(何人かの患者さんにも突っ込まれました)。
休みの日は走ってクリニックに行き、書類など仕上げてまた走って帰ったりしております。もういい年ですし、熱中症に気をつけながら頑張りたいと思っております。
では、本題に入りたいと思います。今回は「うつ病と双極性障害の栄養について」を説明したいと思います。
前回は“統合失調症における栄養について”について説明させていただきました。
詳しくは前回のブログをご覧ください。
統合失調症における栄養について – 三鷹駅こころえがおクリニック ブログ
前回のブログでも説明いたしましたが、摂取する栄養のみで精神疾患が良くなる訳ではありません。あくまで薬物療法や環境調整、精神療法を行いつつ、栄養素のことも気を付けていただければと思います。
まずは疾患の特徴や治療法について説明をします。
*気分障害自体の説明は当クリニックのホームページ内の「診療内容」内にあるうつ病、双極性障害のコピペになります。すでに知識がある方や読んだことがある方は読み飛ばしてください。
★うつ病とは?★
気分の落ち込みや、憂うつな気分、何をしても楽しくない、もの悲しいなどの精神的な症状や、眠れない、食欲がない、疲れやすいなどといった身体症状が続くため、日常生活や仕事に支障が生じる病気です。几帳面、完璧主義、生真面目で責任感が強いなどの性格傾向の方はうつ病になりやすいと言われています。
発症の原因は正確にはよくわかっていませんが、脳内の神経伝達物質である、セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなどの機能低下が関与し、感情や意欲をつかさどる脳の働きに何らかの不調が生じるため、うつ病を発症するのではないかと考えられています。
辛い体験や悲しい体験など、ネガティブなことだけでなく、引っ越しや転職などの環境の変化、昇進や目標を達成した際の嬉しい出来事の後に発症することもあります。また、甲状腺機能低下症や更年期障害などのホルモンバランスが崩れる病気や一部の薬剤の副作用がうつ病発症の原因となることもあります。
★うつ病で認められる症状
*精神面の症状
抑うつ気分(気分が憂うつになる、気分が重い)
- 何をしても楽しくない、何に対しても興味がわかない
- 眠れない、一日中眠い
- イライラする
- 悪いことをしたと感じて自分を責める、自分には価値がないと感じる
- 考えがまとまらない、落ち着かない
- 死にたくなる
- 涙もろい、表情が硬い
- 反応が遅い
*身体面の症状
- 食欲低下、過食
- だるい、疲れやすい
- 頭痛、腹痛、肩こり
- 動悸 、めまい
- 便秘、下痢 、胃の不快感
- 性欲がない
- 口の渇き
★うつ病の診断
誰にでも気分が落ち込むことや食欲が落ちるといった経験はあると思います。脳が健康な状態であれば、時間の経過と共に元気になるのが通常です。しかし、上記の症状が続き、一向に改善しない場合や悪化する場合はうつ病が疑われます。また、気分落ち込みはそれほど目立たないものの、倦怠感、頭痛、肩こりなど、身体の不調が続き、様々な病院で検査をしても原因が分からない場合があります。そういった状態の時は仮面うつ病の可能性もあります。
注意しなければならない点は、双極性障害によるうつ状態です。うつ病の気分の落ち込みと双極性障害のうつ状態はその時の状態だけでは区別がつかないことがあります。気分の波の有無、過眠・過食、妄想などの精神病症状、若年発症(<25歳)、不調を繰り返している、双極性障害の家族歴、抗うつ薬が無効などの特徴がある場合は双極性障害も疑い、より慎重に診断、治療を行う必要があります。
★うつ病の治療
*休息
うつ病は脳の機能が低下している状態です。休息を取り、身体面、精神面の回復(脳の機能の回復)を促す必要があります。症状が重い場合は休職、休学などを検討し、十分期間休息をとっていただくこともあります。 休息することに対して、「自分はこんなに怠けていていいのだろうか」などと気に病んだり自分を責めたりしないようにしてください。「休むこと」が治療であり、病気を治すために必要なことです。 休息が必要な際はしっかり休みましょう。
*療養中の注意点
- なるべく生活リズムを崩さずに、食事も可能な範囲で食べるようにしましょう。
- 先のことを考えすぎず、焦らず、まずは1日1日を無理せず過ごすようにしましょう。
- 既に十分頑張っているので、これ以上頑張らないようにしてください。
- 重大な決断などはなるべく先送りにしましょう。不調感が強い時は普段であればしないような判断をすることがある為、後々後悔することがあります。
- 少し元気が出てきても、無理は禁物です。まだ、エネルギーはそれほど溜まっていないため、少しずつ活動量を増やしてゆくようにしましょう。
- 薬をやめたい、減量したいと思うことは誰しもが思うことです自分の判断で調節せず、まずは相談をしてください。
- リハビリの一環として、リワークデイケア(職場復帰に向けたリハビリ)、就労移行支援
事業所(仕事をするためのリハビリ)を利用し、回復をサポートする方法が徐々に浸透してきており、有用な手段であると思います。当クリニックでもこれらのサポートを他の施設と連携して行うことが可能です。ご相談ください。
*薬物治療について
十分な休息で病状の改善が乏しい場合や病状が重い場合は薬物療法が必要になります。休息と薬物療法を併用することで、回復のスピードが上がり、日常生活や社会生活への復帰の時期が早くなることが期待できます。
主に使用する薬剤は抗うつ薬になります。抗うつ薬はバランスの崩れた脳内の神経伝達物質の働きを回復させることで、うつ病の症状改善を図ることが期待できます。
抗うつ薬はいくつかの種類があります。効果の特徴や副作用の種類が異なるため、状態に適した抗うつ薬を選択し、治療を行います。
主に使用される抗うつ薬には以下の薬剤があります。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI):
パキシル®(パロキセチン)、デプロメール®・ルボックス®(フルボキサミン)、ジェイゾロフト®(セルトラリン)、レクサプロ®(エスシタロプラム)
ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI):
トレドミン®(ミルナシプラン)、サインバルタ®(デュロキセチン)、イフェクサー®(ベンラファキシン)
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA):
リフレックス®・レメロン®(ミルタザピン)
セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調整剤(S–RIM):トリンテリックス®(ボルチオキセチン)
上記で効果が乏しい場合は、三環系抗うつ薬などを使用することもあります。
★双極性障害とは?★
双極性障害は、気分の落ち込み、意欲の低下、不眠などを認めるうつ状態(うつ病相)の時期と、それとは対照的に、テンションの高さが目立つ状態、意欲の亢進、浪費、睡眠欲求の減少などの躁状態(躁病相)の時期を繰り返す慢性の精神疾患です。躁うつ病とも呼ばれます。
双極性障害の方はうつ状態の時に、気分の落ち込み、不眠などを感じ、受診することがほとんどです。躁状態の時は病気であるという実感が少ないため、受診に至ることは稀です。
双極性障害の場合、「躁状態」を呈すると、その後「うつ状態」になることが多く、躁状態の時期よりもうつ状態の時期が長いことが一般的です。躁状態は生涯で数回とう方もいらっしゃいます。
うつ病と診断され、治療を受けていた方が後に躁状態となり、診断が双極性障害に変わることもあります。
★双極性障害の原因
双極性障害の正確な原因は分かっていませんが、脳内の神経伝達物質の情報伝達の乱れによって躁状態とうつ状態を繰り返すと考えられています。
ストレスが1つの誘因となり、双極性障害を発症することがありますが、直接的な原因ではありません。
甲状腺ホルモンの量が過剰になる甲状腺機能亢進症など、特定の病気に伴い双極性障害の症状が現れることもあります。
★双極性障害の症状
躁状態とうつ状態では認められる症状が全く異なります。
*躁状態(躁病相)の症状
- 睡眠時間が短い
- 眠らなくても元気に活動を続けられる、疲れを感じにくい
- 話が止まらない、話の内容が脱線しやすい
- 人の話を聞かない
- 過大な自信 、やたらと声をかける
- 買い物やギャンブルに濫費する
- イライラしやすい
*うつ状態(うつ病相)の症状
- 何をしても楽しくない、興味がわかない
- 疲れているのに眠れない、一日中ねむい
- 悪いことをしたように感じて自分を責める、自分には価値がないと感じる
- 考えがまとまらない、反応が鈍い
- 死にたくなる
- 涙もろくなる
- 食欲がない
- 体がだるい 、疲れやすい
- 性欲がない
- 躁状態とうつ状態が混在する混合状態を呈することもあります。
★双極性障害の診断
躁状態やうつ状態の確認や他の身体の病気の症状の有無、服薬状況などから総合的に診断します。甲状腺機能の影響などを採血検査で精査する場合もあります。
★双極性障害の治療
双極性障害は「躁状態」と「うつ状態」の波をいかにコントロールするかが目標になります。
*薬物療法
基本的には気分の浮き沈みを抑える作用のある薬剤を使用して治療を行います。 気分安定作用のある薬剤は、リーマス®(炭酸リチウム)、デパケン®(バルプロ酸)、テグレトール®(カルバマゼピン)、ラミクタール®(ラモトリギン)があります。双極性障害のうつ状態の時は非定型向精神病薬である、ビプレッソ®、セロクエル®(クエチアピン)、ジプレキサ®(オランザピン)、エビリファイ®(アリピプラゾール)、ラツーダ®(ルラシドン)などを使用することもあります。
*非薬物療法
双極性障害は、治療せずに放置すれば多くの場合再発してしまいます。再発を防ぐためにも薬物療法を続けることが重要です。
薬物療法に加え、日常生活や症状出現時の工夫などを組み合わせることで再発を防ぎやすくなります。また、躁状態を経験すると、「軽い躁状態の時」=「落ち着いている状態」と思ってしまいます。躁状態の後にうつ状態に移行することが多いため、「少し物足りないぐらいの状態」を目標にするとが再発を防ぐポイントになります。そのため、患者さんにも病気の特徴を理解してもらう必要があります。
外来受診時には、再発しないための工夫に加え、薬物療法を継続することの必要性や再発を疑う症状の確認などを都度行なってゆきます。また、再発のきっかけになりやすいストレス因を予測し、それに対する対処法なども一緒に考えて行きます。
気分の変化をより早く気付けるように1日の活動や睡眠状況、その日の調子などを生活リズムチェックシート(当クリニックに用意してあります)に記載をお願いすることもあります。
ここからは新しい内容になります。
★うつ病と双極性障害の栄養学的な問題点★
*うつ病
うつ病は肥満、メタボリック症候群、糖尿病など、エネルギーの過剰摂取が主因となって引き起こされる病態と双方向性の関連があると言われています(注:関連であって、原因ではありません)。
肥満はうつ病の発症リスクを高め、またうつ病は肥満のリスクを高めるという報告もあります。メタボリック症候群、糖尿病についても同様のことが報告されています。
これらの身体疾患は慢性的な軽度の炎症があり、炎症性サイトカインやアディポカイン(脂肪細胞から分泌される生理活性タンパク質を総称)の変化がうつ病発症に関与すると考えられています。
このため栄養食事指導や運動などを行い、肥満の解消をすることで、うつ病の状態を好転させるきっかけになり得る可能性があります。
*双極性障害
双極性障害の方でも肥満や糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなどの頻度が高いという報告や、過食傾向が合併する場合もあることが指摘されています。また、肥満のある双極Ⅰ型の方は、過去のうつ病相ないし、躁病相の回数が多いことや難治性の病相を呈すること、急性期治療後の再発が多いことなどが報告されています。
双極性障害でも慢性的な軽度の炎症による炎症性サイトカインなどの分子が双極性障害や代謝障害の双方の病態発生に関わるとする説もあります。
双極性障害でも栄養食事指導や運動は治療を好転させるきっかけになる得る可能性があります。
★栄養バランスの取れた食事の大切さについて★
では、栄養バランスの取れた食事を続けることでどのようなメリットがあるのでしょうか。以下5つの項目に分け、説明をします。
(病状や生活スタイルで難しいかたは、サプリで補うことを検討してもよいと思います)
*神経伝達物質との関連:
脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなど)は、気分、意欲、睡眠などに大きく関わっています。これらの神経伝達物質は、食事から摂取する特定の栄養素(トリプトファンなどのアミノ酸、ビタミンB群、鉄など)を材料として作られます。これらの栄養素が不足すると、神経伝達物質の合成が滞り、気分が不安定になる可能性があります。
*脳機能の維持
オメガ3脂肪酸(DHA, EPA)は脳の神経細胞の構成成分であり、脳機能の維持や炎症の抑制に重要です。ビタミンDも気分調節や脳機能との関連が指摘されています。
*血糖値の安定化
糖質の過剰摂取は血糖値の急激な上昇と下降を引き起こし、気分の不安定さやイライラに繋がることがあります。全粒穀物や食物繊維を多く含む食品を摂り、血糖値を安定させることは、両疾患において重要です。
*抗炎症作用
炎症はうつ病や双極性障害の発症・悪化に関与すると考えられています。抗酸化作用のあるビタミン(C, E)、ポリフェノール、オメガ3脂肪酸などを積極的に摂ることは、炎症を抑え、脳の健康を保つ上で役立ちます。
*腸内環境の改善(脳腸相関)
近年、「脳腸相関」という概念が注目されています。腸内環境は脳の機能や精神状態に大きな影響を与えることが分かっています。セロトニンの約90%は腸で作られると言われており、腸内環境が乱れると、セロトニンの生成にも影響し、精神症状の悪化につながる可能性があります。発酵食品(ヨーグルト、納豆、味噌など)や食物繊維を豊富に摂り、腸内環境を整えることは、うつ病、双極性障害の両方において重要なことの1つであります。
★うつ病における食事摂取の注意点
うつ病では、特に以下の点が強調されます。
- 食欲の変化への対応: うつ状態では、食欲不振になったり、逆に過食になったりすることがあります。食欲が低下している場合は、少量でも栄養価の高いものを摂取する工夫(スムージーなど)が有効です。
- 特定の栄養素の不足: ビタミンB群(特に葉酸)、ビタミンD、鉄、亜鉛、マグネシウム、オメガ3脂肪酸などがうつ病患者で不足しやすい傾向が報告されており、これらを意識的に摂取することが推奨されます。
- 加工食品の制限: 加工食品や高糖質・高脂肪の食事は、うつ症状を悪化させる可能性が指摘されています。
★双極性障害における食事摂取の注意点
双極性障害では、うつ状態と躁状態を繰り返すため、食事スタイルもそれに合わせて柔軟に対応することが求められます。
- 過食・衝動的な食行動への対処: 躁状態や混合状態では、衝動性が高まり、過食や不健康な食習慣に陥りやすくなります。この場合、あらかじめ食事のルールを決めておく、手の届く範囲に健康的な食品を置いておく、小分けにして食べるなどの工夫が有効です。過度な空腹を避けるために、3食に加えて間食(ナッツ、チーズなど)を取り入れることも推奨されます。
- 薬の副作用との兼ね合い: 双極性障害の治療薬の中には、体重増加や代謝の変化を引き起こすものがあります。食事療法は、これらの副作用を軽減する上でも重要な役割を果たす可能性があります。
まとめ
うつ病と双極性障害の食事スタイルとの関連は、どちらも脳の健康と密接に結びついています。共通してバランスの取れた食事、腸内環境の改善、血糖値の安定化が重要です。
・「健康日本21(第二次)分析評価事業」https://www.nibiohn.go.jp/eiken/kenkounippon21/index.html
・大塚製薬栄養素カレッジ https://www.otsuka.co.jp/college/
https://www.meiji.com/sustainability/contribution/health_nutrition/
・健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/index.html
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
・臨床に役立つ精神疾患の栄養食事指導 功刀浩/阿部裕二 編著 講談社
・「食からメンタルヘルスを科学する栄養精神医学」松岡 豊 最新精神医学 25巻4号
・「うつ病治療における栄養学的配慮」功刀 浩 医学の歩み292巻13号
・「うつ病の栄養学的要因と介入の効果」橋本 みどり, 功刀 浩 精神医学 66巻3号
・「脳腸相関 各種メディエーター,腸内フローラから食品の機能性まで」内藤裕二 編 医歯薬出版
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以上、今回は「うつ病と双極性障害の栄養について」について説明をしました。
次回は神経発達症(発達障害)の栄養について説明してゆきたいと思います。
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皆様の心が少しでも笑顔になりますように。