成人期ADHDの特徴・診断について
- 2021.12.27
みなさんこんにちは。 三鷹駅こころえがおクリニックの山田佳幸です。 当院は三鷹駅南口徒歩3分の精神科・心療内科のクリニックです。
今年はとても寒いですね。冬は空気が乾燥しているため、クリニックから見える富士山もはっきり見え、とてもきれいです。
本日は成人期の注意欠如多動症(以下ADHD)の特徴・診断について説明させていただきます。
*成人期のADHDの特徴*
注意欠如多動症は不注意、多動、衝動性が3大症状の幼少に発症する発達症(発達障害)です。行動の制御に関連する神経生物学的な障害である可能性が高いといわれています。
少し前までは、ADHDは成人になるにつれ症状が目立たなくなると考えられていました。
私が医師になったばかりの頃も、このような考え方が一般的で、成人の方の精神科治療を行う場面でも、ADHD症状の有無について確認することはほとんどありませんでした。
しかし、近年の研究の結果からは、ADHD症状は一部では成人後も改善しないことがわかり、そのために就労後や進学後に生活などに支障を来している方が多くいらっしゃることがわかってきました。
また、成人の方の場合は、ADHD症状に加えて、抑うつや不安、不眠などが併存していることが多く(2次障害といいます)、そういった主訴(困りごと)で受診される方の中にはADHDの特性を認めることがあります。
海外の研究を1つだけ紹介いたします。128人の男児を4年間にわたり追跡調査を行い、年齢の変化による症状の度合いを調べています。
少し詳しく説明をすると、4年間で5回、DSM-Ⅲ-Rという、WHO作成の診断基準を使い、ADHDの症状に変化があるかの調査を行っております(現在はDSM-5が主流です)。
評価の種類としては、
・DSM-Ⅲ-RのADHDの診断基準14項目中、8個未満の項目の特徴がある→症候的寛解
・DSM-Ⅲ-RのADHDの診断基準14項目中、5つ未満項目の特徴がある→症状的寛解
・DSM-Ⅲ-RのADHDの診断基準14項目中、5つ未満項目の特徴があるが、(生活上での)機能障害がない→機能的寛解
以上のように決め、年齢の変化による症状の変化を調べています。
結果としては、成人までに60%のADHD男児がADHDの診断基準を満たさなくなります。しかし、その中の半数は、診断基準を満たすほどではないものの、ADHD症状を認めており、機能的寛解(ADHDの特徴はあるも、生活に支障がない)となった人は全体の10%にも満たなかったという結果が出ました。
(参考文献:Biederman,J.,Mick,E.,Faraone,S.V.:Age-dependent decline of symptoms of attention deficit hyperactivity disorder:impact of remission definition and symptom type. Am J Psychiatry,157;816-818,2000)
この結果からも、ADHDと診断される多くの方は、成人期になっても、症状が続くことがあり、日常生活上で困難や支障を来していることが予想されます。
*成人のADHDで認めやすい症状
〇不注意症状
・会議や事務処理で注意を持続できない |
・やるべき仕事を先延ばししてしまう |
・仕事が遅く、非効率的、物をなくしてしまう |
・約束を忘れる、スケジュール管理ができない |
・やるべきことが複数あると、どれも中途半端になってしまう |
〇多動症状
・過剰におしゃべり |
・感情が高ぶりやすい |
・貧乏ゆすりやじっとしていなければならない場面での落ち着きのなさ、そわそわ感 |
・転職歴の多さ |
・車の運転などでスピードを出しすぎる |
これらの特性があるために、結果的に学業や業務成績の不振、情動の不安定さ、人間関係構築や関係性を維持することの困難さ、環境にうまく適応できないなど問題が生じます。
*成人期ADHDの診断
基本は小児のADHDの診断と共通する部分が多く、幼少時の様子やこれまでの経過(生活歴、現病歴)を診察の中で伺い、特性が幼少から続いているかを判断します。ケースバイケースですが、A-ADHDや、ADHD-RSやCAARSなど、自己チェック式のスクリーニング検査などをすることもあります。
ADHDやASDもそうですが、WAISなどの知的能力を評価する心理検査を行っただけで、で診断を確定することはできません。また、現時点では脳の血流を測るなどして、診断ができるということもありません。
特にADHDはその時の緊張の度合いなどよって、検査中の不注意傾向も異なってくるため、ADHDの方に共通した所見や結果はありません。そのため、当院では、ADHDの方にはASD(自閉スペクトラム症)の傾向があり、生活に支障を来している状態の時など、必要な時のみに限定し、WAIS-Ⅳなどの心理検査を行っております。
*成人期ADHDの鑑別診断
ADHDに認められる症状は他の多くの精神疾患でもよくみられることがあります。
成人期ADHDの方の場合は元々の発達特性に加え、その方の性格、併存疾患などがあると診断は困難となります。
併存疾患が明らかな場合は、どちらの疾患が治療をすべき優先順位が高いかを判断し、優先順位の高い方の治療を行い、改善後に再度ADHDの精査や診断を行います。
・併存疾患の有無に限らず、ADHD症状が幼少から継続して認められる(今その時だけ、ADHD症状がみられている訳ではない)。
・ADHDの特徴による生活の支障が複数の場面で診られる(日常生活、職場など)。
・家族、職場の同僚、友人など、自分以外の方からの情報収集
・服用している薬物や嗜癖などの情報収集
これらの確認を行います。
ADHD症状と類似の症状を呈する身体疾患として、甲状腺疾患、脳外傷、てんかん、脳腫瘍などがあります。身体疾患については、採血や心電図などで鑑別を行います。診察の状態で、CTやMRI、脳波などが必要な際は、他の医療機関に依頼します(当院が作成した紹介状をお渡し、検査を受けていただきます)。
精神疾患ではうつ病、双極性障害、不安症(不安障害)、自閉スペクトラム症、睡眠障害、統合失調症、認知症、薬物の影響によるADHD症状などがあります。
精神疾患では、診察時の状態から上記の精神疾患の有無を判断します。ただし、1回の診察のみで併存する精神疾患の有無が判断できないこともあるため、通院加療を続ける中で判断してゆくことも多いです。
以上、今回は成人のADHDの特徴について、成人期ADHDの鑑別について説明をさせていただきました。
次回は、成人期ADHD(注意欠如多動症)の併存疾患についてを説明したいと思います。
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皆様の心が少しでも笑顔になりますように。