成人期における注意欠如多動症(ADHD)の併存症について

  • 2022.01.30

みなさんこんにちは。 三鷹駅こころえがおクリニックの山田佳幸です。 当院は三鷹駅南口徒歩3分の精神科・心療内科のクリニックです。


今回は成人期における注意欠如多動症(以下ADHD)の特徴・診断について説明させていただきます。


ADHDは不注意、多動性、衝動性といった行動特性から日常生活に支障を来す神経発達症(発達障害)です。

ADHDは自閉スペクトラム症(ASD)や他の精神障害を併存することが多く、年齢と共に状態も変化することや、併存疾患があると、それぞれの症状が絡み合い、表に出てくる症状が典型的でない場合も多くあります。そのため、診断や対応に苦慮することも多く、患者さん自身も不調感を抱えていながらも中々診断に至らないため、生活への支障が大きくなります。


*ADHDの併存症について*

ADHDは様々な精神疾患が併存しやすいため、診断や治療が困難なことがあります。

理由としては、ADHDによる症状と他の併存した疾患で生じる症状が似ている点や共通する部分があるからです。

また、ADHDは幼少から認めるため、それ自体が症状であるという認識がなく、二次障害や他の疾患の症状で不調となり、精神科・心療内科に受診をすることがほとんどです。

Sobanskiらの研究では、健常群とADHDとの群の他の精神疾患の有無についての比較をすると、健常群45.6%に対して、ADHD群は71.1%とADHD群の精神科併存症を持つ比率が有意に高いことが報告されています。

この研究結果からも、ADHD診断を行う際は、併存疾患もある可能性を含め、診察や問診を行う必要があります。

ADHDと併存した疾患の治療についてですが、症状や状態の程度により、優先的に治療を行う疾患を決めます。患者様にもどちらを優先して治療を行うかを必ず説明し、納得いただいた上で、薬物療法などの治療を行いますが、一般的には内因性の精神疾患(うつ病、双極性障害など)や治療が必要な身体疾患がある場合はそちらの治療を優先します。


それでは以下の主なADHDの併存疾患について説明します。

*ADHDとうつ病

*ADHDと双極性障害

*ADHDと不安症(不安障害)

*ADHDと自閉スペクトラム症(ASD)

*ADHDと睡眠障害


*ADHDとうつ病*

ADHD特性が成人後も続いている場合、仕事に加え、家庭などのプライベートな問題など、やるべき課題を同時に行わなければならない状況となることが多く、また、集中して取り組まないといけない場面が多いため、物事がうまくいかなくなることが多くあります。しかし、ADHD特性があると、円滑に進めることができず、ミスなどが増えます。そのため、自己肯定感の低下や繰り返しの失敗体験などにつながり、うつ病発症の誘因の1つとなることもあります。

ADHDとうつ病が併存する場合は、早期のうつ病の発症、うつ病の症状の重症化、うつ病相の高頻度化、自殺行動の増加などが報告されています。

現在ADHDの治療を受けている方でも、気分の落ち込みや意欲の低下、億劫感がある、夜眠れないなどある場合は、うつ病を発症している可能性もあるため、治療の必要性について判断する必要があります。通院中の方や、そうでない方も、心配な場合は遠慮なく院長の山田までご相談ください。

ADHDとうつ病はもちろん別の疾患ですが、共通した症状が有ります。

落ち着きのなさ、集中力の困難さ、注意力の低下イライラ感、気分の易変性(気分が変わりやすい)、業務の完遂困難(やるべきことを最後までできない)などは両者に認められる事があります。

ADHDになると、気分の落ち込みが症状として出現する訳ではありませんが、2次障害の強い患者さんの場合は、気分の落ち込みも認められ、その程度も強いことが多く、うつ病と区別がつかないこともあります。ただし、うつ病の場合は、これらの症状がうつ病の症状悪化時に限定されることが多く、抑うつ気分、体重減少、活動への関心低下などはADHDのみでは認めにくいなど、それぞれの疾患の特徴があるため、これらのことも参考に判断します。

両者が併存している場合は、うつ病の治療を優先的に行い、その後、ADHDの治療を行なってゆきます。


*ADHDと双極性障害*

双極性障害のADHDと類似した症状ですが、躁状態の時は気分の変わりやすさ、活動性の亢進、多弁、不注意、衝動性、易刺激性、落ち着きのなさ、集中困難、注意転導性亢進など、ADHDと共通した症状が認められます。うつ状態の時の類似した症状は「ADHDとうつ病」と共通になります。

上記症状は双極性障害では寛解期(大きな気分の波がなく、安定した状態)には認められませんが、ADHDでは持続的に認められます。また、気分の高揚、誇大性、観念奔逸、睡眠欲求の減少などはADHDでは認められません。

双極性障害による多弁、多動はその時の気分に一致した浮かび続ける考えの連なりであり、それがまとまらずに音や韻(いん)の関連を持つことや、意味的な関連を持ちながら話すため、訴える内容が転々としてしまいます(例:この前、橋を渡った時に転びそうになって、怖かったんだ。そういえば箸の使い方が上手な人がいて、羨ましいいと思ったんだ・・・)。

しかし、ADHDの場合は、考えや訴えが元々まとまっていない状況で話をしてしまう場合や、思い付きで話をする場合などの時は、脈絡なく前の話が中断して、別の話題に急に変わることもあり、結果的に訴える内容が転々としてしまいますが、双極性障害の特徴とは異なります。

双極性障害で診られる気分の変わりやすさは気分の状態により反応が異なり、直後に振り返りをすることは困難な事が場合が多いことに対して、ADHDの場合は、何らかの明確な誘因があることが多く、少し時間が経ち、気分が安定した後に、その時の状況を振り返りができる場合があります。

ただ、実際の診察の中では、両疾患の症状をきれいに分けることは困難です。あまり早急に診断を確定しようとせずに、しっかりと経過を見てゆく必要があります。

ADHDと双極性障害の併存例では、気力の亢進(疲れを知らない、家族など、周囲の人間全員が疲弊している)を認めることや、イライラや怒りの爆発が遷延化(長引く)し、治療を開始するまでは気分の安定がしにくいこともあります。

ADHDに双極性障害が合併した場合は、まずは双極性障害に対する治療を行い、その後、ADHDの治療を行うことが推奨されています。


*ADHDと不安症(不安障害)*

大人ではないのですが、ADHDの児童における不安症の併存する割合は一般の児童に比べ、高い水準であるといわれています。

不安症の方は不安や焦燥感が強いと、落ち着きがなくなるため、結果的に注意力、集中力の困難さが生じます。しかし、ADHDのように周囲の刺激に気が散ってしまうことで落ち着きがなくなるのではなく、その方自身の思考内容(考えている内容)に関連した不安であることが大半です。

治療については、一般的に身体的な不安感が強い場合は不安症の治療を優先することが多いといわれていますが、あくまでその時の状態によると思われます。また、ADHDの治療を行う際は、精神刺激薬(コンサータ、ビバンセ)は使用することで不安が強まる可能性もあるため、まずは、非精神刺激薬(インチュニブ、ストラテラ)を選択します。また、ADHDと不安症が併存していると思われる場合も、ADHDの治療をすることで不安症状が軽減することも実際の診察の場ではよく見られます。


*ADHDと自閉スペクトラム症(ASD)*

これまでは、ADHDとASD(以前に広汎性発達障害(PDD)やアスペルガー症候群(ASP)と呼ばれていた時代です)は全く異なった疾患であると認識されていました。また、2つの診断を同時にすることはできませんでした(DSMやICDといった、国際的診断基準の診断基準では、両者の特性があった場合は、広汎性発達障害の診断をすることとなっていました)。

しかし、近年、DSMの診断基準が改定され、ASD、ADHD両方の特性を持っている場合は、それぞれの診断を行うことができるようになりました。

私のこれまでの経験では、ASD特性を持っている方は、ADHD特性を持っていることが多い印象をうけます。そのため、診察時は常にADHDのことも注意しながら質問や診察などを行っています(逆も然りです)。

ADHDとASDの併存例はそうでない場合と比較し、不注意や多動性が目立つこと、ASD特性が目立つこと、日常生活スキルなどの適応するために行動する力が低いなどのことが報告されています。

ミスが多い、マルチタスクが苦手、準備がギリギリなど、ADHDの特性に聞こえますが、たとえば、ASD特性のため、集団についてゆく事が負担で、余裕がないため、ミスが多い、慣れない環境のため、複数のことを同時に行う事が苦手、先を予測した行動ができないため、準備がギリギリになるなど、表に出ている症状だけではどちらの症状か区別がつかないことも多くあります。そのため、診察の中で、その時の前後の状況も伺った上で、判断します。

治療に関しては、ADHD、ASDそれぞれの特性がある場合の薬物療法の反応性については、一定した評価はなされておりません。いずれにせよそれぞれの特性を理解したうえでの心理社会的なサポートや薬物療法が必要です。


*ADHDと知的能力障害(知的障害)*

・不注意症状

仕事や活動中に綿密に注意することが出来ない、不注意な間違えをしてしまうなどは、ADHDの場合は、嫌な活動や、努力を要する活動などで目立ちますが、逆に本人の楽しみな活動や趣味などでは注意力を保ち続けることが出来ます。

一方、知的能力障害の場合は、活動の好き嫌いにかかわらず、様々な活動場面において、注意力低下が目立ちます。興味が移りやすい点はADHDにも知的能力障害にも観察されます。

・多動

手足をそわそわさせる点は、ADHDだけでなく、知的能力障害でも認められることがありますが、会社や公共交通機関なので、じっとしてられず、落ち着かないなどの行動は知的能力障害ではあまり目立ちません。

趣味などでの落ち月のなさは、ADHDの場合は、じっとしていたいが出来ないなどのことがありますが、知的能力障害の場合は、周囲の様子、環境が理解しにくいため、結果的に落ち着かない行動をとってしまう場合があります。

・衝動性

順番の待てなさはADHD、知的能力障害両者に見られますが、周囲からの質問に対して、出し抜けに答える、途中で遮り話してしまうなどの傾向はADHDにみられやすい。知的能力障害の衝動性は時に認められるが、本人を取り巻く環境に対する理解の乏しさなどがから一時的に衝動清が目立つことがあります。

治療についてですが、ADHDに対する薬物療法については、知的能力障害の有無に関わらず、その方の状態や状況を踏まえて、薬剤の選択をします。ADHDと知的能力障害が併存している場合は、本人の能力に応じた環境調整やサポート体制の検討などが必要になり、ADHD特性も配慮したうえでの調整を行います。


*ADHDと睡眠障害*

ADHDなどの神経発達症には、不眠症、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群(むずむず足症候群)、過眠症、概日リズム障害・覚醒障害など、様々な睡眠障害が併存しやすいといわれています。また、これらの睡眠障害が機能障害を引き起こすため、ADHDの症状自体を悪化させやすいので、注意が必要です。

・睡眠表記録やアプリでの記録などで、セルフケア意識の向上を図る

・入眠前の光の制限。

・起床時間は決めて、外に出ることを意識する。

・1週間を通して、同じ時間に寝て、同じ時間に起きるなど、生活リズムを整える。

・食事(特に朝食)を規則的にとる。

・昼寝はなるべくしない。してもアラームなどで、短時間にする。

以上のことを実施して頂き、まずは睡眠環境を整えます。

また、コンサータやストラテラの副作用で不眠となることもあるため、場合によっては、薬剤を減量、中止や変更をすることもあります。

治療については、睡眠障害が改善することで、日中の眠気も軽減され(眠気自体がADHD類似の症状を呈する事があります)、集中力、注意力が改善することもあるため、睡眠障害の治療を優先します。


以上、今回は成人のADHDの特徴について、成人期ADHDの併存疾患について説明させていただきました。


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皆様の心が少しでも笑顔になりますように。


参考文献

Sobanski E,Bruggemann D, Alm B et al :Psychiatric comorbidity and functional impairment in a clinically referred sample of adults with attention-deficit/hyperactivity disorder(ADHD).Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci 257:371-377,2007 

Biderman,J.,Petty,C.R.,Woodworth,K.Y.,et al.:Adult outcome of attention-deficit/hyperactivity disorder:a control 16-year follow up study.J Clin Psychiatry,73(7);941-950,2012

DSM-5と成人期ADHDの適正診断について 精神神経学雑誌 117: 756-762, 2015

成人期ADHDと気分障害・不安症の併存 精神神経学雑誌 117: 768-774, 2015

注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン 第4版 じほう

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