コロナ罹患後症状(後遺症について)

  • 2022.06.21

みなさんこんにちは。 三鷹駅こころえがおクリニックの山田佳幸です。 当院はJR中央線 三鷹駅南口徒歩3分の多摩地域にある精神科・心療内科のクリニックです。


今回はコロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状(後遺症 post COVID-19 condition)の中で、特に精神症状について説明させていただきます。


★コロナウイルス感染症の罹患後症状(後遺症)について★

新型コロナウイルス感染症は2019年12月に中国・武漢で原因不明の肺炎として報告されて以降、日本を含む全世界に感染が拡大している感染症です。


最近は東京でも新型コロナウイルスに感染する人数は減少傾向で、日常生活の中でも徐々に制限の解除・緩和が進み始めています。

感染者数が減少する一方で感染性が消失し、主な症状は回復したにもかかわらず、”後遺症”と呼ばれるような症状あるいは新たな、または再び生じて持続する症状などに悩む方が少なからずみられることがわかってきました。

後遺症の種類や重症度にもよりますが、日常生活や仕事・学業などに支障を来す方々も多くいます。

この後遺症は年齢や性別などに関係なく、どの方でも起こる可能性があります。後遺症が起こる原因については、現段階ではまだはっきりとわかりません。

後遺症に対する治療法についても確立されたものはありませんが、その方の症状に合わせた治療(対症療法)を行い、症状の改善を図ります。精神的な症状も同様です。

後遺症の多くは身体的な症状ですが、抑うつや不眠など、精神症状も出現することもあります。


今回は、このコロナウイルス感染症の罹患後の症状(後遺症)について、精神症状(心の不調)を中心に説明をしてゆきたいと思います。

尚、今回は、2022年4月に発行された、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第1版」(医療従事者や行政機関向けです)の内容をもとに説明させていただきます。

*まずは、COVID―19罹患後症状について、ざっくり説明をいたします。


★COVID-19後の症状の定義★

WHOはCOVID-19後の症状について、以下のように定義しております。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後の症状は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に罹患(感染)した人に見られ、少なくとも2か月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないものと定義されています。

この症状は、COVID-19の急性期から回復した後に新たに生じる症状と、急性期から持続する症状があります。また、症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもあります。


〇代表的な罹患後症状〇

罹患後症状については、海外の多くの大規模調査研究の結果が報告されております。

日本でも、厚労省の研究で調査が行われるなどされております。代表的な罹患後症状は以下になります。

疲労感・倦怠感、関節痛、筋肉痛、咳、喀痰、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害集中力低下不眠、頭痛、抑うつ、嗅覚障害、味覚障害、動悸、下痢、腹痛、筋力低下

太字のものは、精神科・心療内科に受診される方が多く訴える症状でもあります。


〇罹患後症状の頻度・持続期間〇

海外の複数の研究の報告では、入院後2か月あるいは退院/回復後1か月経過した方では、72.5%が何らかの症状の訴えを認めたそうです。

思った以上に割合が高く、私も驚きました。

最も多いのは倦怠感(40%)で、息切れ(36%)、嗅覚障害(24%)、不安(22%)、咳(17%)、味覚障害(16%)、抑うつ(15%)の順で、後遺症が認められました。

また、別の研究では、12週以上遷延(長引く)する、何らかの症状を認めた方は37.7%であったが、その後は21.6%に減少したと報告しております。


日本の研究の報告では、COVID-19と診断され、入院歴のある方525名の追跡調査の研究があります。

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第1版」より


様々な症状が認め、COVID-19と診断後、全体の10%に罹患後症状が認められましたが、診断後~退院までの期間の罹患後症状は診断後3か月、診断後6か月と時間が経過してゆくなかで、改善してゆく傾向が認められます。


上記の研究以外にも、イギリスの研究によると、デルタ株が流行している頃にCOVID-19に感染した人が後遺症を起こす割合10.8%に対して、オミクロン株が流行していた時期にCOVID-19に感染した人が後遺症を起こす割合は、4.5%と、デルタ株と比較すると半数以下の出現率であったという報告も出ています。

参考文献:Risk of long COVID associated with delta versus omicron variants of SARS-CoV-2

The Lancet Vol399,issue 10343,P2263-2264,JUNE 18,2022


★コロナ後遺症の精神症状について

ここからは罹患後症状の中でも特に精神症状について説明してゆきたいと思います。

COVID-19の拡大が人々の精神面に及ぼす影響については、パンデミック発生当初から懸念されています。精神症状の発現については、現在までに得られている知見として、ウイルス性肺炎を伴う呼吸器系を中心とする炎症及び免疫反応により、全身の様々な臓器や組織に異常をきたし、その結果、血液脳関門(Blod-brain barrier)における能動輸送障害や血管透過性亢進、サイトカインストームなどの免疫応答異常などといった、メカニズムが想定されていますが、はっきりした原因はまだわかっていません。

また、COVID-19と精神疾患との関連性についてはいまだ確立した知見は得られてはいません(関係があるかないかということの結論が出ておりません)。

しかし、アメリカの研究では、不安障害,睡眠障害,および 65 歳以上の認知症における新規発症リスクが,COVID-19 以外の呼吸器感染症, インフルエンザ,皮膚炎,胆管炎,尿道炎,および骨折などに罹患した場合に比べ,有意に増大することが示されたとの結果があります。

しかし、私の勝手な私見ですが、これは、COVID-19に感染したことに加え、これまで経験したことのない状況や不安、自粛に伴い、外出することや人と接することの減少などが不安障害や睡眠障害、認知症発症に影響を与えているのではないかと思われます。そのため、コロナに感染=不安障害、睡眠障害、認知症になりやすいというわけではないのではないかと思っており、この研究結果の解釈には注意が必要であると思います。今後の研究結果を注視してゆきたいと思います。


〇認められる主な精神症状〇

思考力の低・集中力の低下(brain fog*1)、頭痛、睡眠障害、気分変調(気持ちの波)、疲労感・倦怠感、運動緩慢、認知障害*2、不安、抑うつ、また、ウイルスが変異を繰り返す恐怖、未知の病気に対する不安などが生じやすいといわれております。

*1 brain fog :「脳の中に霧がかかったような」広義の認知機能障害の一種で、記憶障害、知的明晰さの欠如、集中力不足、精神的疲労、不安などが特徴です。「頭がボーっとする」などの症状は特徴的であり、初めて経験する記憶障害、集中力低下などが出現すると、戸惑いや焦りだけでなく、日常生活や就学・就労、職場復帰などの妨げになることもあります。

*2 認知障害:認知症だけではなく、言葉を記憶したり、物事に注意を向けたり、それに基づいて行動を組織したり、実際の作業を行うことに困難を来す状態を認知障害といいます。)

罹患後に見られる抑うつや不安などは、時間経過と共に徐々に改善し、情動の不安定感や不規則な生活リズムなどは元の状態までに回復する場合が多いとされています。

ただ、COVID罹患により、本人やそのご家族や周囲との関係が変化し、それが心理的な不安となり、不調感が強まることもあります。その方の状況や心理を理解するように努めることが大切であり、不安を和らげる、安心して話せる環境を整えるなどの工夫も大切だと思います。


★治療★

大前提として、症状が新型コロナウイルス感染症の後遺症によるものなのか、そのほかの病気によるものなのかを見極めるため、その症状や困りごとが、COVID感染以前からあった状態や病気の悪化なのかの判断を行います。そのために、問診や場合によっては検査(当院では採血のみとなります。CTやMRIなどが必要な場合は、他の病院にお願いすることがあります)も行います。

後遺症に対する治療法についても確立されたものはありません。その方の症状・状態に合わせた治療(対症療法)を行い、症状の改善を図ります。

後遺症が続き、生活や仕事に支障がある場合は、環境調整、一時的な負担軽減の相談や、不安や気分の落ち込み、不眠など認める場合はご本人と相談した上で依存などに注意しながら必要最低の投薬を行うこともあります。

しかし、時間経過と共に改善することも多いため、後遺症が改善後は、薬剤の減量、中止を行ってゆきます。


以上、コロナ感染症の罹患後症状(後遺症)について説明をさせていただきました。

少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。


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皆様の心が少しでも笑顔になりますように。

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