精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について   その1

  • 2022.07.24

①その1 双極症(双極性障害、躁うつ病)で使用する薬剤について

みなさんこんにちは。 三鷹駅こころえがおクリニックの山田佳幸です。 当院はJR中央線 三鷹駅南口徒歩3分の多摩地域にある精神科・心療内科のクリニックです。


今回は双極症(双極性障害、躁うつ病)で使用する薬剤について説明をしてゆきたいと思います。

精神科・心療内科で使用する薬剤にはほかにもたくさんありますので、何回かに分けて説明を行ってゆく予定です。

精神科・心療内科の薬剤(向精神薬)の中で、双極症に対する薬剤から始める理由ですが、季節にあります。コロナウイルスのBA.5株が猛威を振るっており、まだまだマスク着用が必要な状況です。また、猛暑のため、脱水や熱中症に注意が必要な時期です。水分補給を怠ると、気分安定薬のリチウム(リーマス、炭酸リチウム)はリチウム中毒のリスクが高まるため、内服されている方は注意が必要なであるからです。

*副作用についてですが、内服すると必ず副作用が出るという訳ではありません。過度に心配なさらないでください。また、全ての副作用を記載しているわけではありません。比較的認めやすい副作用、注意すべき副作用を中心に記載しておりますので、その点もご了承ください。

*副作用は飲み始め、容量変更時、急な中断などのタイミングが特に注意が必要です。お薬が開始となった際、上記の時期は気を付けていただき、何か変化や心配な点がある場合は遠慮なくご質問ください。

*副作用が出現した際は、原則、減量や中止をします。ただ、飲み続けることで副作用が目立たなくなる場合もあります。また、他の薬剤に変更が難しい場合は副作用止めなどを内服し、継続していただくこともあります。こちらも心配なことなどがある場合はご相談ください。


双極症(双極性障害、躁うつ病)について★

双極症は、気分の落ち込み、意欲の低下、不眠などを認めるうつ状態(うつ病相)の時期と、それとは対照的に、テンションの高さが目立つ状態、意欲の亢進、浪費、睡眠欲求の減少などの躁状態(躁病相)の時期を繰り返す慢性の精神疾患です。

*双極症という疾患名ですが、以前は双極性障害(双極Ⅰ型障害、双極Ⅱ型障害)、躁うつ病と

呼ばれておりました。

詳しくはホームページ内の双極性障害(躁うつ病)をご覧ください。

https://kokoro-egao.net/manic_depression.html


★双極症(双極性障害、躁うつ病)の治療薬★

双極症では主に気分安定薬、抗精神病薬、抗うつ薬を使用します。

今回は気分安定薬について説明をします。抗精神病薬、抗うつ薬は今後作成する予定です。

〇気分安定薬について〇

気分安定薬は双極症(双極性障害、双極Ⅰ型障害、双極Ⅱ型障害、躁うつ病)に対しての治療薬になります。

もちろん薬物療法だけが精神疾患の治療ではありませんが、気分安定薬をはじめとする、双極症に対する薬物療法は、気分の波を小さくする(気分の大きな波を抑え、安定化させる)目的のため、必要な治療法です。

また、薬物療法により、気分の波が改善した後も、その波が大きくならないように、予防的な意味合いも含め、継続して使用を続けます。


〇気分安定薬の種類〇

一般名商品名用法添付文書上の適応病名
炭酸リチウムリーマス、
炭酸リチウム
2~3回/日から開始。
維持期は1~3回/日
躁うつ病、
躁病
バルプロ酸
ナトリウム
デパケンR、
セレニカR、
バルプロ酸Na徐放錠、
バルプロ酸SR錠、
デパケン*、
バルプロ酸Na錠*
1回/日
*2~3回/日
躁うつ病、
躁病、
片頭痛、
てんかん
ラモトリギンラクタール、
ラモトリギン、
1回/日双極性障害、
てんかん
カルバマゼピンテグレトール、
カルバマゼピン
1~2回/日躁うつ病、躁病、
統合失調症、
てんかん、
三叉神経痛

*炭酸リチウム(リーマス錠、炭酸リチウム錠)の副作用

代表的なものとしては、神経系の症状(めまい、眠気、ふらつき、手の震え、しびれなど)、胃腸系の症状(のどの渇き、下痢、吐き気、食欲不振など)、皮膚の症状(にきび、発疹など)、腎臓の症状(腎機能障害、多尿など)、甲状腺の症状(甲状腺機能低下症など)、心臓の症状(徐脈、頻脈)などがあります。


・特に注意すべき副作用(リチウム中毒)

リチウムの体内での血中濃度が高くなると出現します。

リチウムは0.4m~1.0mEq/ℓが治療域とされています。これは採血を行い、血中濃度を調べることで血中濃度を調べます。血中濃度が0.4以下であっても、状態が安定していれば無理に増量をすることはしません。しかし、症状が改善後は同じ量のリチウムを服用していても、血中濃度が変化する可能性があるため、注意が必要です。個人的には1mEq/ℓ付近以上になると、容量の見直しや早めに採血させていただくようにしています。また、血中濃度が正常範囲でも、リチウム中毒の症状がでることがあるため、副作用の有無を確認するようにしています。

当たり前かもしれませんが、過量服薬をした場合は容易に中毒症状が出現します。

また、発熱や下痢、脱水などの場合も注意が必要です。


併用しているお薬にも注意が必要な場合があります。

・痛み止めなどで処方される、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):ロキソニン、ボルタレンなど

・体のむくみをとるなどで処方される利尿剤である、サイアザイド系利尿剤:フルイトラン、トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジド、バイカロン、メフルシド、アレステン、ノルモナール、テナキシル、ナトリックス等)など。ループ利尿剤:ラシックス、フロセミド、ダイアート、ルプラック、アゾセミド、トラセミド

・血圧を下げる、心臓や腎臓を保護する薬:①アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB):ニューロタン、ロサルタン、ブロプレス、カンデサルタン、ディオバン、バルサルタン、オルメテック、オルメサルタン、ミカルディス、テルミサルタンなど。②アンジオテンシン変換:酵素(ACE)阻害薬Ⅱ:エースコール、テモカプリル、タナトリル、イミダプリル、レニベース、エナラプリル、コバシル、ぺリンドプリルなど


・リチウム中毒で認められる副作用

血中濃度副作用
軽・中等度の中毒域
(血中濃度1.5~2.5mEq/ℓ)
食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢、振戦(ふるえ)
脱力、運動失調
重症の中毒域
(血中濃度1.5~2.5mEq/ℓ)
錯乱、昏睡、けいれん
血中濃度3.5mEq/ℓ以上多臓器不全等

リチウム中毒含め、リチウムを内服している方の副作用には常に注意をしております。

そのため、定期的な採血を行い、定期的に血中濃度を測定することが望ましいと思います。


*バルプロ酸(デパケンR錠、セレニカR錠、バルプロ酸Na徐放錠、バルプロ酸SR錠、デパケン錠、バルプロ酸Na錠)の副作用

下痢や吐き気、眠気、ふらつき、肝機能障害、血小板減少、白血球減少、体重増加などがみられます。


・注意すべき副作用(高アンモニア血症)

バルプロ酸内服により、血中のアンモニアが上昇することがあります(高アンモニア血症)。アンモニア値が上昇すると、吐き気や嘔吐、呼びかけても反応・傾眠傾向などの意識障害、けいれんなどの異常行動が見られることもあります。

また、便秘が続くと、腸内細菌が産生するアンモニアの量が増加し、産生されたアンモニアを体内に吸収されて体内のアンモニア量が増えることがあるため、注意が必要です。

そのため、内服初期や増量時には注意が必要なため、採血を実施し、アンモニアの血中濃度の測定、バルプロ酸の血中濃度や肝機能について確認をする必要があります(併せて、白血球や血小板なども測定し、異常がないか確認します)。

アンモニアが高値の場合や肝機能障害などがある際は、バルプロ酸の減量や中止を行います。


*ラモトリギン(ラクタール錠、ラモトリギン錠)の副作用

頭痛、眠気、めまい、吐き気などがあります。

・特に注意すべき副作用(皮膚症状)

皮膚粘膜眼症候群(スチーブンス・ジョンソン症候群)や中毒性表皮壊死症(ライエル症候群)などの重篤な皮膚障害が現れることがあるため、十分な注意が必要です。難しそうな名前の副作用ですが、要は薬に対する皮膚アレルギーです。稀な副作用ではありますが、発症すると体の治療が必要な副作用です。皮膚の発疹、唇や口内(粘膜)のただれ、発熱、目の充血、のどの痛み、倦怠感などが出現した際は、クリニックに連絡いただくか、ラモトリギンを中止してください。

皮膚の副作用が出やすい条件が報告されています。

①投与開始量が推奨用量よりも多い場合や急速に用量を増やした場合

②13歳以下の方

③バルプロ酸との併用症例

④ほかの抗てんかん薬で皮膚症状が生じたことのある方

上記の方は特に注意が必要です。 そのため、処方を行う場合はこれらのことに十分に注意して投薬を行う必要があります。


*カルバマゼピン(テグレトール、カルバマゼピン)の副作用

眠気、ふらつき、めまい、吐き気、倦怠感、耳鳴り、聴力変化、聴覚過敏、音程変化

・注意すべき副作用(皮膚症状)

ラモトリギンと同様、皮膚粘膜眼症候群(スチーブンス・ジョンソン症候群)や中毒性表皮壊死症(ライエル症候群)などの重篤な皮膚障害が現れることがあるため、十分な注意が必要です。難しそうな名前の副作用ですが、要は薬に対する皮膚アレルギーです。稀な副作用ではありますが、発症すると体の治療が必要な副作用です。皮膚の発疹、唇や口内(粘膜)のただれ、発熱、目の充血、のどの痛み、倦怠感などが出現した際は、クリニックに連絡いただくか、カルバマゼピンを中止してください。

・注意すべき副作用(血球減少:白血球減少、赤血球減少、血小板減少)

頻度は不明ですが、血球の減少が認められることがあります。採血時に血中濃度測定と合わせて、白血球、赤血球、血小板などもチェックさせていただき、血球関係の副作用の有無を確認します。


以上、双極症に使用される気分安定薬について説明をさせていただきました。

少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今後は抗精神病薬、抗うつ薬についての説明をする予定です。


参考文献

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/

医療用医薬品 添付文書等情報検索 – PMDA

https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2020.pdf

日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ.双極性障害

精神科治療薬の副作用:予防・早期発見・治療ガイドライン

精神科治療学22巻 増刊号 星和書店

<特集>気づきにくい向精神薬の副作用

精神科治療学 34巻5号 星和書店

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皆様の心が少しでも笑顔になりますように。

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