精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について   その2

  • 2022.08.28

 双極症(双極性障害、躁うつ病)で使用する抗精神病薬・抗うつ薬(少しだけ)について


みなさんこんにちは。 三鷹駅こころえがおクリニックの山田佳幸です。 当院はJR中央線 三鷹駅南口徒歩3分の多摩地域にある精神科・心療内科のクリニックです。


精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について、疾患別に説明をさせていただいております。


前回は双極症(双極性障害、躁うつ病)で使用する薬剤のなかでも、気分安定薬の副作用を中心に、説明させていただきました。

詳しくは前回のブログをご参照ください。

精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について その1 気分安定薬

今回は双極症で使用する、抗精神病薬、抗うつ薬 (少しだけ)の副作用ついて説明をしてゆきたいと思います。抗うつ薬については、特に注意することのみにとどめ、次回のブログで説明をする予定です。

*抗精神病薬は元々は統合失調症に対しての治療薬でしたが、双極症、うつ病、うつ状態に対して効果があることがわかり、双極性障害の治療薬として使用ことが一般的になっております(ビプレッソは双極性障害のみに対する治療薬です)。


*副作用についてですが、内服すると必ず副作用が出るという訳ではありません。過度に心配なさらないでください。また、全ての副作用を記載しているわけではありません。比較的認めやすい副作用、注意すべき副作用を中心に記載しておりますので、その点もご了承ください。

*副作用は飲み始め、容量変更時、急な中断などのタイミングが特に注意が必要です。お薬が開始となった際、上記の時期は気を付けていただき、何か変化や心配な点がある場合は遠慮なくご質問ください。

*副作用が出現した際は、原則、減量や中止をします。ただ、飲み続けることで副作用が目立たなくなる場合もあります。また、他の薬剤に変更が難しい場合は副作用止めなどを内服し、継続していただくこともあります。こちらも心配なことなどがある場合はご相談ください。


★抗精神病薬について★

抗精神病薬はたくさんの種類の薬がありますが、全ての薬剤が双極症に使用できるわけではありません。

双極症に対しての投与が認められている薬剤は、オランザピン(ジプレキサ)、ビプレッソ、エビリファイ(アリピプラゾール)、ラツーダです(日本うつ病学会治療ガイドラインⅠ.双極性障害 2020 では、オランザピン、リスペリドン、パリぺリドン、アセナピンといった非定型精神病薬(第2世代抗精神病薬)やチミペロン、ゾテピンなどの定型抗精神病薬(第1世代抗精神病薬)も使用されることがありますが保健適応外のため今回は省略します)。


一般名商品名用法添付文書上の適応病名
オランザピンジプレキサ、オランザピン1回/日統合失調症、双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善、抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)
クエチアピンフマル酸塩徐放錠ビプレッソ就寝前1回/日双極性障害におけるうつ症状の改善
アリピプラゾールエビリファイ、アリピプラゾール1回/日統合失調症、うつ病、うつ状態、双極性障害における躁症状の改善、小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性
アリピプラゾール水和物筋注用
(注射剤)
エビリファイ持続性水懸筋注用4週に1回
臀部筋肉内又は三角筋内に筋注
統合失調症、双極Ⅰ型障害における気分エピソードの再発・再燃抑制
ルラシドンラツーダ食後1回/日統合失調症、双極性障害におけるうつ症状の改善

★抗精神病薬共通の副作用★

全ての抗精神病薬においてこれから説明する副作用が全て出現する訳ではありません。

各薬剤により、出現頻度が出やすい副作用、出にくい副作用があります。

副作用が出た際は、可能であれば減量や中止をします。難しい場合は副作用を改善する薬剤を投与することもあります。


*錐体外路症状(錐体外路障害)

抗精神病薬はドパミンを遮断する作用があり、過剰に遮断されると以下の症状が認められることがあります。

・薬剤性パーキンソニズム(ふるえ・筋肉のこわばり、小刻み歩行など)
・アカシジア(むずむず、ソワソワしてじっとしていられない)
・急性ジストニア(筋肉の異常な収縮が起き、舌が出てしまう、食いしばってしまい、口が引かない、首が勝手に曲がってしまう、眼球が上に上がってしまうなどが現れます)
・ジスキネジア(口をもぐもぐ動かす、舌を左右に揺らす、歯を食いしばる、目が閉じられない、手足が勝手に小刻みに動くなど、自分の意志で止めることのできない動き(不随意運動)です)

これらの症状が出現した際は、可能であれば、原因となっている薬剤の減量、中止、他剤のを検討します。

しかし、減量や中止が難しい場合は、副作用を抑える薬剤(アキネトン(ビペリデン)、アーテン(トリヘキシフェニジル、ピレチア/ヒベルナ(プロメタジン)など)を使用することがありますが、副作用をおさえる薬剤の副作用もあるため、できるだけ使わずに対処できることが理想です。

既に海外では使用されていましたが、日本でも2022年3月に遅発性ジスキネジア(長期に抗精神病薬を内服していた場合に起こることがあるジスキネジア)に対する治療薬である、ジスバル(バルベナジン)という薬剤が使用できるようになりました。遅発性ジスキネジアでお困りの方はご相談ください。


*高プロラクチン血症

薬剤によっては、プロラクチンというホルモンが高値になることがあります。

プロラクチンが高値になると、生理不順や母乳が出る、胸が張るなどの症状が出現することがあります。

高プロラクチン血症が疑われる際は、採血をし、プロラクチンの数値を測り、高値の場合、基本は減量や中止、他の薬剤への変更にて対処をします。


*便秘・口渇・排尿困難

抗精神病薬は抗コリン作用(副交感神経の働きが抑えらえる)を認めるものもあり、それによる副作用が出現することがあります。

便秘や口渇も抗コリン作用のために出現することがあります。

原因薬剤の減量、中止、変更などが出来ればよいですが、困難な場合もあります。

便秘については生活習慣の改善や工夫、漢方や整腸剤、下剤などを併用することもあります。

口渇は口の中の唾液が十分に出ない状況です。口渇を感じるとのどが渇いたと思いやすく、飲水量が多量になりすぎてしまうことがあります。口をゆすぐ、カロリーの少ないガム、アメなどをなめるなどし、唾液が出やすくするなどのことで対応してもらうこともあります。

排尿困難については減量、中止、変更などで対応しますが、時に副作用止めのお薬を服薬してもらうことがあります。


*ふらつき・眠気

ふらつきや眠気などが出現することがあります。

ふらつきについては特に立ち上がる時に(いわゆる立ちくらみ)症状が出やすいため、ゆっくり立ち上がる、朝食などを抜いている方にはまずは少量でもよいので朝に食事をとってもらうなどの対処をしてもらいます。

眠気については夜間眠れていない場合にも日中の眠気が出る場合もあるため、睡眠環境の見直しや原因となる薬剤を夕方や就寝前内服に変更するなどの工夫をすることもあります。

改善が認められないときは内服の減量、中止、他剤への変更を検討します。血圧をあげる薬剤を使用することもあります。


*体重増加

食欲増加、代謝の影響や食生活の乱れなどから体重が増加してしまう場合があります。人によっては、たくさん食べても満腹にならないなどの感覚を感じる方もいます。

後述しますが、糖尿病がある方は、使用できないお薬もあります。

体重や食事の管理、運動などを行ってもらいますが、クスリの影響が大きいと、これらの管理を行っても、体重が戻りにくい場合もあります。状況によっては、採血を行い、血糖やHbA1C(過去1~2ヶ月前の血糖値を反映する検査)、コレステロール、中性脂肪などを図り、内臓面の影響を見ることもあります。

改善が乏しければ、減量や中止、他の薬剤に変更をします。


*その他注意すべき副作用

頻度は多くないですが、悪性症候群、不整脈などといった副作用があります。

○悪性症候群

悪性症候群は、頻度は低いものの、薬の飲み始め、減量などを含む用量が変わったとき、急な中止、脱水状態の時などに起きやすいといわれています。

発熱、反応が鈍くなるなどの意識の障害、震えや筋肉の強いこわばり、心拍数や呼吸数の増加、

筋肉の組織が壊れることにより腎臓に負担がかかることがあります。

これらの症状が出た際はや疑わしいときは原因薬剤の中止及び、身体的な管理や治療がが必要となります。

めったに起きることはありませんが、薬剤を使用する際はこのような重篤な副作用の可能性について常に気を付けながら投薬を行っております。

○不整脈 

抗精神病薬は、心電図の波形の中の、QTという部分が延長してしまうことがあります。

QTが延長しすぎてしまうと、不整脈が起きることがあります。

抗精神病薬の量が多い場合や長期に内服している場合は、心電図を実施し、QTの延長の有無を確認します。QTが延長している場合は、程度にもよりますが、基本はお薬を減量したり、他の薬剤に変更することが多いです。


★それぞれの抗精神病薬の特徴的な副作用★

オランザピン・ビプレッソ、エビリファイ、ラツーダの副作用について説明します。

*オランザピン(ジプレキサ)、ビプレッソ

非定型抗精神病薬のなかでも多受容体作動薬(Multiacting Receptor Targeted Antipsychotic:MARTA)に分類される薬剤です。

副作用には、便秘・口渇、眠気、ふらつき、体重増加などがあります。

・特に注意すべき副作用(高血糖)

オランザピンやビプレッソは糖代謝に影響し、食欲増加、体重増加や高血糖や糖尿病に進行することがあるため、血糖が高い方、糖尿病と診断されている方に投薬をすることはできません。

ビプレッソは禁忌ではありませんが、この薬剤はセロクエル(クエチアピン)の徐放剤であり、セロクエルは糖尿病に使用禁忌のため、投与する際は、細心の注意が必要です。

オランザピン、ビプレッソは他の抗精神病薬と比較し、錐体外路症状や高プロラクチン血症の出現が少ないとされています。


〇エビリファイ(アリピプラゾール)

エビリファイは非定型抗精神病薬の中でもドパミンの量を適切に調節してくれる作用があり、ドパミン・システム・スタビライザー(dopamine system stabilizer:DSS) に分類される薬剤です。

主な副作用として、不眠、神経過敏、不安、傾眠、アカシジア(じっとしていることができない)、振戦(手足の震え)、流涎(よだれが出る)などあります。

体重増加や眠気、高プロラクチン血症などは他の抗精神病薬より起こしにくいとされています。

○エビリファイ持続性水懸筋注用(アリピプラゾール水和物筋注用)

エビリファイの注射剤で4Wに1度の注射剤です。基本はエビリファイの内服薬と特徴に変わりはありませんが、注射剤のため、注射をした部位の痛みや繰り返すことでの注射部位の硬結などがあります。

注射剤を使用する場合、副作用が出てしまうと4W続いてしまうため、まずはエビリファイの錠剤の内服をしてもらい、効果や副作用などの安全性を確認後に、注射に移行します。初回注射をすることはありません。


〇ラツーダ(ルラシドン)

ラツーダは非定型抗精神病薬の中でも、セロトニン・ドーパミンアンタゴニスト(serotonin dopamine antagonist:SDA)に分類される薬剤です。

副作用としては、錐体街路症状や高プロラクチン血症や眠気やふらつき、吐き気などがあります。

他の薬剤と比較すると比較的副作用は少ない薬剤になります。

★抗うつ薬について★

抗うつ薬についての副作用については、次回のブログで詳しく説明をする予定ですが、副作用とい訳ではありませんが、双極性障害の方に抗うつ薬を使用すると、気分の波が不安定になる、躁状態となってしまうなど、逆に病状が不安定になることがあります。そのため、極力使用を控える流れになっております。しかし、他の方法で改善が不十分な時には慎重に使用をすることがあります。


以上、双極症に使用される抗精神病薬、抗うつ薬(少しだけ)について説明をさせていただきました。

少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今後はうつ病で使用する抗うつ薬の副作用について、さらに詳しくについての説明をする予定です。


参考文献

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/

医療用医薬品 添付文書等情報検索 – PMDA

https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2020.pdf

日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ.双極性障害

精神科治療薬の副作用:予防・早期発見・治療ガイドライン

精神科治療学22巻 増刊号 星和書店

<特集>気づきにくい向精神薬の副作用

精神科治療学 34巻5号 星和書店

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皆様の心が少しでも笑顔になりますように。

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