精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について   その4

  • 2022.11.17

統合失調症で使用する抗精神病薬の副作用について

~定型抗精神病薬~

みなさんこんにちは。 三鷹駅こころえがおクリニックの山田佳幸です。 当院はJR中央線 三鷹駅南口徒歩3分の東京都多摩地域にある精神科・心療内科のクリニックです。


ワールドカップが近づいてきましたね。SAMURAI JAPAN是非、決勝トーナメントに進出してほしいです。


ここ最近は精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について、疾患別に説明をさせていただいております。


前回は ”うつ病で使用する抗うつ薬の副作用について” について説明させていただきました。

詳しくは前回のブログをご参照ください。

精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について   その3 – 三鷹駅こころえがおクリニック ブログ (kokoro-egao.net)


今回は統合失調症で使用する抗精神病薬の副作用について(定型抗精神病薬)説明をしてゆきたいと思います。

抗精神病薬は、主に統合失調症に対する治療薬ですが、それ以外にも、薬剤によっては小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性、双極性障害における躁症状の改善、うつ病・うつ状態などに対して使用することもあります(保険適応外ですが、主に入院中などにせん妄状態となった方に少量使用することなど、さまざまな状態に使用をすることもあります)。


*副作用についてですが、内服すると必ず副作用が出るという訳ではありません。過度に心配なさらないでください。また、全ての副作用を記載しているわけではありません。比較的認めやすい副作用、注意すべき副作用を中心に記載しておりますので、その点もご了承ください。

*副作用は飲み始め、容量変更時、急な中断などのタイミングが特に注意が必要です。お薬が開始となった際、上記の時期は気を付けていただき、何か変化や心配な点がある場合は遠慮なくご質問ください。

*副作用が出現した際は、原則、減量や中止をします。ただ、飲み続けることで副作用が目立たなくなる場合もあります。また、他の薬剤に変更が難しい場合は副作用止めなどを内服し、継続していただくこともあります。こちらも心配なことなどがある場合はご相談ください。


★抗精神病薬の種類について★

抗精神病薬にはいくつかの種類があります。抗精神病薬も抗うつ薬同様、基本依存性はありません。

抗精神病薬は定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬の2種類に分けることができます(第1世代、第2世代と呼ばれたりもします)。

昔からある薬剤を定型抗精神病薬といいます。1996年以降に登場した抗精神病薬を非定型抗精神病薬といいます。非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬よりは副作用が少ないとされており、現在、抗精神病薬を処方する場合は非定型抗精神病薬を選択することがほとんどで、定型抗精神病薬の出番は減ってきています。

非定型抗精神病薬から説明を行いたいところですが、割と順番にこだわる方なので、まずは定型抗精神病薬について説明をしたいと思います。

ブログを準備のため、薬剤を調べていたところ、定型抗精神病薬の一部が発売中止になっているものもありました。めったに使用しない薬剤ではありましたが、ちょっと寂しくなってしまいました。


*抗精神病薬には持効性注射剤といって、一回の注射で数週間~3か月ほど薬の効果が持続する注射薬がいくつかあります。LAIとかデポ剤とか呼ばれるものです。持効性注射剤については、別の機会に説明をしたいと思います。


★定型抗精神病薬について

定型抗精神病薬にはフェノチアジン系抗精神病薬、ブチロフェノン系抗精神病薬、ベンザミド系抗精神病薬などの種類に分けられます。


*フェノチアジン系抗精神病薬

一般名商品名用法添付文書上の適応病名
クロルプロマジンコントミン、
ウィンタミン、
クロルプロマジン
分割経口投与統合失調症、躁病、
神経症における不安・緊張・抑うつ、悪心・嘔吐、吃逆、破傷風に伴う痙攣、麻酔前投薬、人工冬眠、催眠・鎮静・鎮痛剤の効力増強
レボメプロマジンレボトミン、ヒルナミン分割経口投与統合失調症、躁病、うつ病における不安・緊張。
ペルフェナジンピーゼットシー、
トリラホン
分割経口投与統合失調症、術前・術後の悪心・術前・術後の嘔吐、メニエル症候群(眩暈、耳鳴)
フルフェナジン錠フルメジン分割経口投与統合失調症
プロクロルペラジンノバミン分割経口投与統合失調症、術前・術後等の悪心・術前・術後等の嘔吐
プロぺリシアジンニューレプチル分割経口投与統合失調症

★フェノチアジン系抗精神病薬の副作用★

他の抗精神病薬同様、中脳辺縁系のドーパミン受容体(D2受容体)を阻害するため、アドレナリンα1受容体阻害作用、抗コリン作用、抗ヒスタミン作用が強いため、それらの副作用が出現しやすいです。一方で、ブチロフェノン系と比較すると錐体外路症状(錐体外路障害)がでることは比較的少ないとされています。


*アドレナリンα1受容体阻害作用

末梢血管の収縮を妨げる作用が出現することがあり、起立性低血圧(立ちくらみ)が出現することがあります。もともと起立性低血圧の傾向がある人、血圧が低い方、利尿剤を内服している方は特に注意が必要です。

また、鎮静効果が強すぎると(過鎮静)、統合失調症の陰性症状と区別がつきにくいことがあります。

これらの症状が出る場合は減量や他の薬剤への変更を検討します。起立性低血圧については、効果があり、他の薬剤に変更ができないときは血圧を上げる薬剤を併用することもあります。


*抗コリン作用(アセチルコリンの働きを抑えることで出現する副作用)

口渇、便秘、眼圧上昇、排尿困難などの副作用を認めることがあります。

口渇は口をゆすぐ、ノインシュガーのアメ、ガムなどを噛むなどして唾液分泌を促す方法で対処してもらうことがあります。

便秘に関しては、食生活や水分摂取量の見直しや運動などを心がけてもらいます。それでも改善がない場合は下剤や整腸剤の投薬を検討します。

眼圧上昇が抗精神病薬の内服により生じる場合があります。緑内障がある方は注意が必要ですが、緑内障のタイプによっては問題なく服薬ができることが多いため、眼科の先生に確認をとってもらった上で、開始します。

排尿困難があると尿が出にくくなります。特に男性の方で前立腺肥大などがあると尿の出にくさがさらに悪化してしまうことがあるため、処方は控えます。排尿障害に対する副作用止めのお薬もありますが、そのお薬の副作用もあるため、私の場合は、排尿障害がある場合は、減量、中止をすることが多いです。


抗ヒスタミン作用(H1受容体拮抗作用)による副作用

抗ヒスタミン作用による、眠気、食欲亢進、体重増加などがみられます。

これらが出現した際は、内服の時間帯を変える、食生活、運動などの工夫をしてもらいますが、減量、中止することも多いです。


*注意すべき副作用

○悪性症候群

悪性症候群は頻度は低いものの、薬の飲み始め、減量などを含む用量が変わったとき、急な中止、脱水状態の時などに起きやすいといわれています。

発熱、反応が鈍くなるなどの意識の障害、震えや筋肉の強いこわばり、心拍数や呼吸数の増加、

筋肉の組織が壊れることにより腎臓に負担がかかることがあります。

これらの症状が出た際はや疑わしいときは原因薬剤の中止及び、身体的な管理や治療がが必要となります。

めったに起きることはありませんが、薬剤を使用する際はこのような重篤な副作用の可能性について常に気を付けながら投薬を行っております。

○遅発性ジスキネジア

長期間服薬を続けていると起きることがあります。遅発性ジスキネジアでは非定型抗精神病薬よりも定型抗精神病薬を長期に服用している場合の方が出現するリスクはあるとされています。

症状は、口を無意識にもぐもぐさせる、頭や肩を無意識に動かし続ける、といったものです。一度この症状が起きると、なかなか改善しないのですが、2022年にはジスバル(バルベナジントシル酸塩カプセル)という遅発性ジスキネジアに対する治療薬が使用できるようなりました。

この薬剤を使用するか、もともとの原因の薬剤を別のものに変更や減量をするなどの対処を行います。

○不整脈 

抗精神病薬は、心電図の波形の中の、QTという部分が延長してしまうことがあります。

QTが延長しすぎてしまうと、不整脈が起きることがあります。

抗精神病薬の量が多い場合や長期に内服している場合は、心電図を実施し、QTの延長の有無を確認します。QTが延長している場合は、程度にもよりますが、基本はお薬を減量したり、他の薬剤に変更することが多いです。


*ブチロフェノン系抗精神病薬

現在発売されているブチロフェノン系抗精神病薬は以下の薬剤があります。

一般名商品名用法添付文書上の適応病名
ハロペリドールセレネース、
ハロペリドール
経口投与統合失調症、躁病
ブロムペリドールブロムペリドール経口投与統合失調症
スピペロンスピロピタン経口投与統合失調症
チミペロンチミペロン、
トロペロン
分割経口投与統合失調症
ピパンペロンプロピタン経口投与統合失調症

★ブチロフェノン系抗精神病薬の副作用★

ブチロフェノン系抗精神病薬はフェノチアジン系と比較すると、アドレナリンα1受容体阻害作用や抗コリン作用、抗ヒスタミン作用は弱い一方で、錐体外路症状(錐体外路障害)が出やすいことや、長期服用で遅発性ジスキネジアの問題もあります。

それぞれの副作用はフェノチアジン系抗精神病薬の項目をご覧ください。


*ベンズアミド系抗精神病薬

一般名商品名用法添付文書上の適応病名
スルピリドスルピリド、ドグマチール分割経口投与統合失調症、うつ病・うつ状態、胃潰瘍・十二指腸潰瘍
スルトプリドバルネチール分割経口投与統合失調症の興奮及び幻覚・妄想状態、躁病
ネモナプリドエミレース分割経口投与統合失調症

★ベンズアミド系抗精神病薬の副作用★

ベンズアミド系抗精神病薬は他の定型抗精神病薬よりは副作用の出現が比較的少ないとされています。

それぞれの薬剤で副作用の特徴が少し異なるので、1つ1つ説明してゆきます。

・スルピリドは錐体外路症状(錐体外路障害)は少なく、眠気なども出にくい薬剤です。統合失調症やうつ病症状に加え、食欲不振がある際に処方することもあるため、逆に食欲が亢進しすぎてしまう場合があります。

・スルトプリドは錐体外路症状(錐体外路障害)や眠気はスルピリドよりも出現しやすいことや、QT延長にも注意が必要な薬剤です。

・ネモナプリドは錐体外路障害が出やすく、便秘、食欲低下が認められることもあります。一方でスルトプリドよりは眠気が出にくい薬剤です。

・ベンザミド系抗精神病薬3剤の共通の副作用はプロラクチン上昇に伴う無月経、乳汁分泌、胸の張り、性機能障害です。遅発性ジスキネジア、悪性症候群注意すべき副作用になります。


*その他の定型抗精神病薬

一般名商品名用法添付文書上の適応病名
ゾテピンロドピン、
ゾテピン
分割経口投与統合失調症
クロカプラミンクロフェクトン3回に分けて経口投与統合失調症
オキシペルチンホーリット1日2~3回経口投与統合失調症

この3種類の薬剤では、ゾテピン以外は初回で投与することはほとんどありません。そのため、ゾテピンのみ特徴を記載します。

ゾテピンは他の薬剤と比較し、錐体外路症状(錐体外路障害)が起こりににくく、眠気などの鎮静効果が強いという特徴があります。便秘にも注意が必要です。

また、けいれんが副作用として認められることがあるため、てんかんやけいれんの既往がある方や、ゾテピンが高容量となった場合には特に注意が必要です。また、抗コリン作用による排尿困難、尿閉、頻尿などにも注意が必要です。


以上、統合失調症で使用する抗精神病薬のうち、定型抗精神病薬について説明させていただきました。

次回は非定型抗精神病薬について説明を行ってゆきたいと思いいます。


参考文献

精神科治療薬の副作用:予防・早期発見・治療ガイドライン

精神科治療学22巻 増刊号 星和書店

<特集>気づきにくい向精神薬の副作用

精神科治療学 34巻5号 星和書店

ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版

メディカル・サインエンス・インターナショナル

専門医のための臨床精神神経薬理学テキスト

日本臨床精神神経薬理学会専門医制度委員会 星和書店

ジェネラリストのための 向精神薬の使い方 ”作用機序から考える”向精神薬の使い分け

日本医事新報社

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