精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について   その5

  • 2022.12.27

統合失調症で使用する抗精神病薬の副作用について

~非定型抗精神病薬~

みなさんこんにちは。 三鷹駅こころえがおクリニックの山田佳幸です。 当院はJR中央線 三鷹駅南口徒歩3分の東京都多摩地域にある精神科・心療内科のクリニックです。


気づけばもう年末ですね。ダウンコートや手袋が手放せない時期ですね。

私は4ー5年に1回くらい手袋をなくします。今月がその時で、仕方なく、新しいものを購入しました。とても暖かいのですが、またいつなくすのでは?とヒヤヒヤしています。

まだまだ寒い日が続きます。みなさまご自愛ください。


ここ最近は精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について、疾患別に説明をさせていただいております。


前回は ”統合失調症で使用する抗精神病薬の副作用について(定型抗精神病薬)” について説明させていただきました。

詳しくは前回のブログをご参照ください。

精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について   その4 – 三鷹駅こころえがおクリニック ブログ (kokoro-egao.net)


今回は統合失調症に対して使用する抗精神病薬の副作用の中で非定型抗精神病薬について説明します。

抗精神病薬は、主に統合失調症に対する治療薬ですが、薬剤によっては小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性、双極性障害における躁症状の改善、うつ病・うつ状態などに対して使用することもあります(保険適応外ですが、主に入院中などにせん妄状態となった方に少量使用することなど、さまざまな状態に使用することがあります)。


*副作用についてですが、内服すると必ず副作用が出るという訳ではありません。過度に心配なさらないでください。また、全ての副作用を記載しているわけではありません。比較的認めやすい副作用、注意すべき副作用を中心に記載しておりますので、その点もご了承ください。

*副作用は飲み始め、容量変更時、急な中断などのタイミングが特に注意が必要です。お薬が開始となった際、上記の時期は気を付けていただき、何か変化や心配な点がある場合は遠慮なくご質問ください。

*副作用が出現した際は、原則、減量や中止をします。ただ、飲み続けることで副作用が目立たなくなる場合もあります。また、他の薬剤に変更が難しい場合は副作用止めなどを内服し、継続していただくこともあります。こちらも心配なことなどがある場合はご相談ください。


★抗精神病薬の種類について★

前回のブログでも、抗精神病薬は定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬の2種類に分けることができることをお伝えしましたが、もう1度説明します。

昔からある薬剤を定型抗精神病薬といいます。1996年以降に登場した抗精神病薬を非定型抗精神病薬といいます。非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬よりは副作用が少ないとされており、現在、抗精神病薬を処方する場合は非定型抗精神病薬を選択することがほとんどで、定型抗精神病薬の出番は減ってきています。

ただ、非定型抗精神病薬が格段に優れているというかというと、そういう訳でもないようです。定型と非定型の比較をする試験(研究)では、非定型抗精神病薬と定型薬を比較する場合、錐体外路症状の出現しやすい定型薬のハロペリドールを選ぶことが多く(用量も高く設定されているため)、非定型抗精神病薬の方が優れているという結果になりやすいのです。

とはいえ、非定型抗精神病薬の方が定型抗精神病薬よりも副作用は少ないため、第一選択として使われることが多いのですが、複数の非定型抗精神病薬を使用しても、効果が不十分、副作用のため、継続が困難などの際は、定型薬を使用することが今でもあります。

私が精神科医になったばかりの頃はすでに非定型抗精神病薬が発売されていましたが、先輩Drからは、「セレネース(ハロペリドール)やコントミン(クロルプロマジン)をしっかり使えるようになりなさい」といわれました。当時はなぜ??と思っておりましたが、少し経験を重ねた今では、基本をしっかり理解した上で、薬物療法を行うことが精神科治療では重要であるとことを実感しております。アドバイスを貰えてよかったな~っと思っています。指導をして頂いた、たくさんの先輩Drに感謝です。


それでは本題に入りたいと思います。


★非定型抗精神病薬について★

非定型抗精神病薬には薬剤の特徴から、SDA(セロトニン・ドパミン遮断薬 serotonin dopamine antagonist:SDA)、MARTA(多元受容体作用抗精神病薬 Multi-Acting Receptor-Targeted Antipsychotics)、DSS(ドパミン受容体部分作動薬 dopamine system stabilizer)、SDAM(Serotonin Dopamine Activity Modulato)の4種類があります。

順番に種類、副作用について説明してゆきたいと思います。


*SDA(セロトニン・ドパミン遮断薬)


一般名商品名用法添付文章上の適応病名
リスペリドンリスパダール、
リスペリドン
1日2回経口投与統合失調症、
小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性
パリぺリドンインヴェガ1日1回朝食後統合失調症
ペロスピロンルーラン、
ペロスピロン
1日3回統合失調症
ブロナンセリンロナセン、
ブロナンセリン
1日2回食後統合失調症
ルラシドンラツーダ1日1回食後統合失調症、
双極性障害におけるうつ症状の改善

★SDA(セロトニン・ドパミン遮断薬)の副作用★

SDAはドパミンD2受容体とセロトニン2A(5‐HT2A)受容体を遮断作用を持っています。どちらかというとドパミン受容体よりもセロトニン受容体に対する遮断作用が強いです。

ドパミンD2受容体が遮断されると、錐体外路症状(障害)や高プロラクチン血症が出現しやすいため、注意が必要です。その他にも、ヒスタミン受容体、アドレナリンα1受容体を遮断するため、眠気、ふらつき、立ち眩みなどにも注意が必要です。


*錐体外路症状(錐体外路障害)

抗精神病薬はドパミンを遮断する作用があり、過剰に遮断されると以下の症状が認められることがあります。

・薬剤性パーキンソニズム(ふるえ・筋肉のこわばり、小刻み歩行など)
・アカシジア(むずむず、ソワソワしてじっとしていられない)
・急性ジストニア(筋肉の異常な収縮が起き、舌が出てしまう、食いしばってしまい、口が引かない、

首が勝手に曲がってしまう、眼球が上に上がってしまうなどが現れます)
・ジスキネジア(口をもぐもぐ動かす、舌を左右に揺らす、歯を食いしばる、目が閉じられない、手足が勝手に小刻みに動くなど、自分の意志で止めることのできない動き(不随意運動)です)

これらの症状が出現した際は、可能であれば、原因となっている薬剤の減量、中止、他剤のを検討します。

しかし、減量や中止が難しい場合は、副作用を抑える薬剤(アキネトン(ビペリデン)、アーテン(トリヘキシフェニジル、ピレチア/ヒベルナ(プロメタジン)など)を使用することがあります。しかし、副作用をおさえる薬剤の副作用もあるため、できるだけ使わずに対処できることが理想です。

既に海外では使用されていましたが、日本でも2022年3月に遅発性ジスキネジア(長期に抗精神病薬を内服していた場合に起こることがあるジスキネジア)に対する治療薬である、ジスバル(バルベナジン)という薬剤が使用できるようになりました。遅発性ジスキネジアでお困りの方はご相談ください。


*高プロラクチン血症

薬剤によっては、プロラクチンというホルモンが高値になることがあります。

プロラクチンが高値になると、生理不順や母乳が出る、胸が張るなどの症状が出現することがあります。

高プロラクチン血症が疑われる際は、採血をし、プロラクチンの数値を測り、高値の場合、基本は減量や中止、他の薬剤への変更にて対処をします。


*ふらつき・眠気

ふらつきや眠気などが出現することがあります。

ふらつきについては特に立ち上がる時に(いわゆる立ちくらみ)症状が出やすいため、ゆっくり立ち上がる、朝食などを抜いている方にはまずは少量でもよいので朝に食事をとってもらうなどの対処をしてもらいます。

眠気については夜間眠れていない場合にも日中の眠気が出る場合もあるため、睡眠環境の見直しや原因となる薬剤を夕方や就寝前内服に変更するなどの工夫をすることもあります。

改善が認められないときは内服の減量、中止、他剤への変更を検討します。血圧をあげる薬剤を使用することもあります。


*体重増加

食欲増加、代謝の影響や食生活の乱れなどから体重が増加してしまう場合があります。人によっては、たくさん食べても満腹にならないなどの感覚を感じる方もいます。SDAは比較的体重増加は少ないですが、中には影響が出てしまう方がいるため、注意が必要です。

体重や食事の管理、運動などを行ってもらいますが、クスリの影響が大きいと、これらの管理を行っても、体重が戻りにくい場合もあります。状況によっては、採血を行い、血糖やHbA1C(過去1~2ヶ月前の血糖値を反映する検査)、コレステロール、中性脂肪などを図り、内臓面の影響を見ることもあります。

改善が乏しければ、減量や中止、他の薬剤に変更をします。


*その他注意すべき副作用

頻度は多くないですが、悪性症候群、不整脈などといった副作用があります。

○悪性症候群

悪性症候群は、頻度は低いものの、薬の飲み始め、減量などを含む用量が変わったとき、急な中止、脱水状態の時などに起きやすいといわれています。

発熱、反応が鈍くなるなどの意識の障害、震えや筋肉の強いこわばり、心拍数や呼吸数の増加、

筋肉の組織が壊れることにより腎臓に負担がかかることがあります。

これらの症状が出た際はや疑わしいときは原因薬剤の中止及び、身体的な管理や治療がが必要となります。

めったに起きることはありませんが、薬剤を使用する際はこのような重篤な副作用の可能性について常に気を付けながら投薬を行っております。

○不整脈 

抗精神病薬は、心電図の波形の中の、QTという部分が延長してしまうことがあります。

QTが延長しすぎてしまうと、不整脈が起きることがあります。

抗精神病薬の量が多い場合や長期に内服している場合は、心電図を実施し、QTの延長の有無を確認します。QTが延長している場合は、程度にもよりますが、基本はお薬を減量したり、他の薬剤に変更することが多いです。


*MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)


一般名商品名用法添付文書上の適応病名
オランザピンジプレキサ、
オランザピン
1日1回経口投与統合失調症、
双極性障害における躁症状及び双極性障害におけるうつ症状の改善、
シスプラチン等の抗悪性腫瘍剤投与に伴う消化器症状<悪心・嘔吐>
クエチアピンセロクエル、
クエチアピン
1日2~3回経口投与統合失調症
クエチアピン徐放錠ビプレッソ1日1回就寝前
(食後2時間以上あける)

双極性障害におけるうつ症状の改善
*統合失調症の適応はありませんが、抗精神病薬ではあるため、一応載せておきました。
アセナピンシクレスト1日2回舌下投与統合失調症

★MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)の副作用★

MARTAは、ドパミンD2受容体やセロトニン2A(5‐HT2A)受容体への遮断作用を持ちます。また、アドレナリンのα1受容体やヒスタミンのH1受容体などの多くの受容体に対して作用するため、それに関連した副作用が出現します。

SDAよりもMARTAの方が鎮静作用や眠気が強い印象を受けます。そのため、それを逆手にとり、不眠や落ち着きのなさが目立つ方にあえて使用することもあります。

MARTAは特に注意すべき副作用として、高血糖があります。

MARTAの中でも、オランザピンやビプレッソは糖代謝に影響し、食欲増加、体重増加や高血糖や糖尿病に進行することがあるため、血糖が高い方、糖尿病と診断されている方に投薬をすることはできません(ビプレッソは投与可能ですが、個人的には他の選択肢がない場合に慎重に投与を検討します)。

ビプレッソは禁忌ではありませんが、この薬剤はセロクエル(クエチアピン)の徐放剤であり、セロクエルは糖尿病に使用禁忌のため、投与する際は、細心の注意が必要です。

一方で同じMARTAでもアセナピン(シクレスト)は高血糖などの注意はそれほど必要なく、糖尿病の方にも使用ができます。アセナピン(シクレスト)は抗精神病薬の中で唯一舌下投与のため、処方する際は、そのことを患者さんに説明をします(普通に内服すると効果がかなり減ってしまいます)。

MARTAは他の抗精神病薬と比較し、錐体外路症状や高プロラクチン血症の出現が少ないとされています。


*DSS(ドパミン受容体部分作動薬 dopamine system stabilizer)

と、SDAM(Serotonin Dopamine Activity Modulato)について

DSSはエビリファイ(アリピプラゾール)、SDAMはレキサルティ(ブレクスピラゾール)のそれぞれ1剤づつになります。


一般名商品名用法添付文書上の適応病名
アリピプラゾールエビリファイ、
アリピプラゾール
1日1回経口投与統合失調症、
双極性障害における躁症状の改善、
うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)、
小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性
ブレクスピラゾールレキサルティ1日1回経口投与統合失調症

★DSS

DSSは現時点ではエビリファイ1剤のみです。エビリファイはドパミンD2受容体のパーシャルアゴニストの作用があります。

副作用はたの抗精神病薬よりも高プロラクチン血症や錐体外路症状、過鎮静や体重増加や糖尿病、高脂血症などが少ないとされています。

*パーシャルアゴニストとは?

ざっくり説明すると、エビリファイの場合は、ドパミンを適度な量に調整してくれます。ドパミンが過剰なときは抑えて、不足している場合は働きを強めてくれる作用を持ちます。ドパミンを過剰にブロックしすぎないため、副作用も他剤よりは少ないとされています

また、アカシジアと呼ばれるじっとしていられない感覚や手足のムズムズする感覚が生じる副作用が生じることがあります。アカシジアは何とも言えない不快な感じです。アカシジアや錐体外路症状(錐体外路障害)を抑えるため、抗精神病薬を使用する際は、予防的に副作用止めをはじめから処方する場合もありますが、前述したとおり、副作用止めの副作用もあるため、個人的には初めから処方することはあまりありません。


SDAM★

SDAMは現時点ではレキサルティ1剤のみです。エビリファイを改良して、セロトニンに対して強く働き、エビリファイよりも控えめですが、控えめにドパミンにも働きます。

副作用は他の薬剤と比較すると出現しにくい問われていますが、下痢や嘔気、体重増加、頭痛、アカシジア(そわそわして、じっと落ち着いていられない状態)等があります。


★代表的な非定型抗精神病薬の副作用★

それぞれの薬剤の出現しやすい副作用について、論文の一部をまとめて表にしました。

これは、「ジェネラリストのための 向精神薬の使い方 ”作用機序から考える”向精神薬の使い分け

日本医事新報社」 をもとに作成しております。



以上、統合失調症で使用する抗精神病薬のうち、非定型抗精神病薬について説明させていただきました。

次回は統合失調症で使用する主な注射剤やテープについて説明を行う予定です。

それでは皆さんよいお年を。


参考文献

Lancet.2009 Jan 3;373(9657):31-41

J Clin Psychiatry.2006 Jun;67(6):897-903

ジェネラリストのための向精神薬の使い方”作用機序から考える”向精神薬の使い分け

日本医事新報社

専門医のための臨床精神神経薬理学テキスト

日本臨床精神神経薬理学会専門医制度委員会 星和書店

ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版

メディカル・サインエンス・インターナショナル

<特集>気づきにくい向精神薬の副作用精神科治療学 34巻5号

星和書店

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