精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用 その6

  • 2023.01.22

 統合失調症で使用する抗精神病薬の副作用について

 ~注射剤・テープ剤~


みなさんこんにちは。 三鷹駅こころえがおクリニックの山田佳幸です。 当院はJR中央線 三鷹駅南口徒歩3分の東京都多摩地域にある精神科・心療内科のクリニックです。

三鷹駅は北口は武蔵野市、南口は三鷹市と線路を挟んで市が異なります。


明日からは、10年に1度の寒波が来るようです。10年前私は長野県の大学病院で努めていましたが、大雪で雪かきや出勤がすごく大変だったことを思い出しました。

今回は三鷹で雪は降らなそうですが、気温は下がりますので、皆さん防寒対策などし、風邪をひかぬようお過ごしください。


ここ最近は精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について、疾患別に説明をさせていただいております。

前回は ”統合失調症で使用する抗精神病薬の副作用について(非定型抗精神病薬)” について説明させていただきました。

詳しくは前回のブログをご参照ください。

精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用について   その5 – 三鷹駅こころえがおクリニック ブログ (kokoro-egao.net)


今回は統合失調症に対して使用する抗精神病薬の副作用の中で注射剤、テープについて説明します。

注射剤やテープは主に統合失調症に対する治療薬ですが、双極1型障害における気分エピソードの再発・再燃抑制に対して使用できる薬剤などもあります。

また、使い方も1日1~数回のものから、2週に1回、1か月に1回、3か月に1回など様々です。

薬物療法を行う上で、経口薬以外にも選択肢があると、その方にとって一番合うものを選ぶことができるため、患者さんの負担軽減につながるため、治療上も有用です。


*副作用についてですが、内服すると必ず副作用が出るという訳ではありません。過度に心配なさらないでください。また、全ての副作用を記載しているわけではありません。比較的認めやすい副作用、注意すべき副作用を中心に記載しておりますので、その点もご了承ください。

*副作用は飲み始め、容量変更時、急な中断などが出現しやすい印象があります。お薬が開始となった際、上記の時期は気を付けください。何か変化や心配な点がある場合は遠慮なくご質問ください。

*副作用が出現した際は、原則、減量や中止をします。ただ、飲み続けることで副作用が目立たなくなる場合もあります。また、他の薬剤に変更が難しい場合は副作用止めなどを内服し、継続していただくこともあります。こちらも心配なことなどがある場合はご相談ください。


今回のブログでは持効性注射剤、それ以外の注射剤、テープ剤の順番で説明してゆきます。


★持効性注射剤(デポ剤・LAI)について★

まずは持効性注射剤についてです。 

持効性注射剤は、デポ剤や最近はLAI(Long Acting Injection)などと呼ばれており、統合失調症や双極性障害の治療薬です。

*投与方法

筋肉注射になります。

三角筋(腕の筋肉です)または臀部筋(お尻の筋肉ことです)に注射をします。

筋肉注射の場合、注射をした後に注射部位を揉むこともありますが、デポ剤の場合は、決して揉まないようにしてください。

デポ剤はざっくりいうと、とても濃い液剤のため、揉みこんでしまうと、筋肉の組織が損傷しやすくなります。また、効果が一定にならなくなるためです。

*デポ剤のメリット

・1回の注射で体内にお薬が長期間に体内にとどまります。そのため、血中濃度が安定しやすくなり、副作用が出にくいとされています、また、安定して薬効が続くため、再発のリスクを減らすことができます。

・内服の場合、飲み忘れ、間違えなどがあると、統合失調症の病状が悪化した少なります。デポ剤の場合は、そのような心配はありません。定期的に通院し、注射を受けることが出来れば、病状が安定し、内服薬を減らすことができるといったメリットがあります。

・デポ剤だけで薬物治療をしている場合、旅行や出張などでもお薬を飲まなくてもよいため、薬を飲んでいる姿を他人に見られるのでは?などといった心配をする必要がなくなります。

*デメリット

・注射する際の痛みがあります。また、同じ場所に注射を打ち続けるとその部分の筋肉が固くなってしまうことがあります(硬結)。そのため、左右の腕に交互に打つなどし、硬結することを防ぎます。

・注射は1度体内に入ると取り出すことができないため、副作用が出てしまうと長引いてしまいます。そのため、同じ種類の内服薬を開始させていただいた上で、副作用の有無をチェックした後にデポ剤を導入します。

・ここ最近発売されたデポ剤(リスパダールコンスタ、ゼプリオン、ゼプリオンTRI、エビリファイ持続性水懸筋注用)はお薬代が高いです。

デポ剤を含め、精神科への受診やお薬は自立支援医療制度の対象となるため、デポ剤を導入する際は、自立支援の申請を勧めさせていただいております(簡単に説明すると、精神科の診察や薬代などの自己負担額が3割から1割になります)。

お気軽に院長の山田までご相談ください。

自立支援についての詳しい説明はこちらをご覧ください。

自立支援医療制度について – 三鷹駅こころえがおクリニック ブログ (kokoro-egao.net)


★持続性注射剤の種類★

持続性注射剤にも定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬があります。

内服薬同様、新規にデポ剤を開始する場合は、非定型抗精神病薬のデポ剤を使用することが主流です。また、デポ剤のほとんどは4週間に1度の頻度で投与を行います。

当院では下記のいくつかの種類のデポ剤をストックしております。すべての種類の薬剤に対応できますので、新規でデポ剤をご検討されている場合は、院長の山田までご相談下さい。


一般名商品名定型・非定型注射をする期間添付文書上の適応病名
リスペリドンキットリスパダール コンスタ筋注用非定型2週間隔で臀部筋肉内に投与統合失調症

パリペリドンパルミチン酸エステルキット
ゼプリオン水懸筋注非定型4週に1回、三角筋又は臀部筋内に投与統合失調症
パリペリドンパルミチン酸エステルキットゼプリオンTRI水懸筋注非定型12週間に1回、三角筋又は臀部筋に筋肉内投与統合失調症
アリピプラゾール水和物筋注用エビリファイ持続性水懸筋注用非定型4週に1回臀部筋肉内又は三角筋内に投与統合失調症、
双極1型障害における気分エピソードの再発・再燃抑制
ハロペリドールデカン酸エステル注射液ハロマンス定型4週に1回筋肉内投与統合失調症
フルフェナジンデカン酸エステル注射液フルデカシン定型4週に1回筋肉内投与統合失調症

*デポ剤初回導入後、2回目のみ注射をする間隔が各薬剤によって異なります。

*ゼプリオンTRI水懸筋注製剤は、ゼプリオンを4週間以上投与しており、安全性・忍容性が確認さ   れた場合にのみ開始できます。

*デポ剤も現在は定型薬よりも非定型薬を投与することが一般的な流れですが、定型薬のデポ剤で状態が安定しており、副作用なども認めない場合は、無理に非定薬の注射剤に変更はしません。


副作用について★

注射部位の痛みや注射した部位の筋肉の硬結のリスク以外は内服薬と同様です。

*錐体外路症状(錐体外路障害)

抗精神病薬はドパミンを遮断する作用があり、過剰に遮断されると以下の症状が認められることがあります。

・薬剤性パーキンソニズム(ふるえ・筋肉のこわばり、小刻み歩行など)
・アカシジア(むずむず、ソワソワしてじっとしていられない)
・急性ジストニア(筋肉の異常な収縮が起き、舌が出てしまう、食いしばってしまい、口が引かない、

首が勝手に曲がってしまう、眼球が上に上がってしまうなどが現れます)
・ジスキネジア(口をもぐもぐ動かす、舌を左右に揺らす、歯を食いしばる、目が閉じられない、手足が勝手に小刻みに動くなど、自分の意志で止めることのできない動き(不随意運動)です)

これらの症状が出現した際は、可能であれば、原因となっている薬剤の減量、中止、他剤のを検討します。

しかし、減量や中止が難しい場合は、副作用を抑える薬剤(アキネトン(ビペリデン)、アーテン(トリヘキシフェニジル、ピレチア/ヒベルナ(プロメタジン)など)を使用することがあります。しかし、副作用をおさえる薬剤の副作用もあるため、できるだけ使わずに対処できることが理想です。

既に海外では使用されていましたが、日本でも2022年3月に遅発性ジスキネジア(長期に抗精神病薬を内服していた場合に起こることがあるジスキネジア)に対する治療薬である、ジスバル(バルベナジン)という薬剤が使用できるようになりました。遅発性ジスキネジアでお困りの方はご相談ください。


*高プロラクチン血症

薬剤によっては、プロラクチンというホルモンが高値になることがあります。

プロラクチンが高値になると、生理不順や母乳が出る、胸が張るなどの症状が出現することがあります。

高プロラクチン血症が疑われる際は、採血をし、プロラクチンの数値を測り、高値の場合、基本は減量や中止、他の薬剤への変更にて対処をします。


*ふらつき・眠気

ふらつきや眠気などが出現することがあります。

ふらつきについては特に立ち上がる時に(いわゆる立ちくらみ)症状が出やすいため、ゆっくり立ち上がる、朝食などを抜いている方にはまずは少量でもよいので朝に食事をとってもらうなどの対処をしてもらいます。

眠気については夜間眠れていない場合にも日中の眠気が出る場合もあるため、睡眠環境の見直しや原因となる薬剤を夕方や就寝前内服に変更するなどの工夫をすることもあります。

改善が認められないときは内服の減量、中止、他剤への変更を検討します。血圧をあげる薬剤を使用することもあります。


*体重増加

食欲増加、代謝の影響や食生活の乱れなどから体重が増加してしまう場合があります。人によっては、たくさん食べても満腹にならないなどの感覚を感じる方もいます。

体重や食事の管理、運動などを行ってもらいますが、クスリの影響が大きいと、これらの管理を行っても、体重が戻りにくい場合もあります。状況によっては、採血を行い、血糖やHbA1C(過去1~2ヶ月前の血糖値を反映する検査)、コレステロール、中性脂肪などを図り、内臓面の影響を見ることもあります。

改善が乏しければ、減量や中止、他の薬剤に変更をします。


*その他注意すべき副作用

頻度は多くないですが、悪性症候群、不整脈などといった副作用があります。

○悪性症候群

悪性症候群は、頻度は低いものの、薬の飲み始め、減量などを含む用量が変わったとき、急な中止、脱水状態の時などに起きやすいといわれています。

発熱、反応が鈍くなるなどの意識の障害、震えや筋肉の強いこわばり、心拍数や呼吸数の増加、

筋肉の組織が壊れることにより腎臓に負担がかかることがあります。

これらの症状が出た際はや疑わしいときは原因薬剤の中止及び、身体的な管理や治療がが必要となります。

めったに起きることはありませんが、薬剤を使用する際はこのような重篤な副作用の可能性について常に気を付けながら投薬を行っております。

○不整脈 

抗精神病薬は、心電図の波形の中の、QTという部分が延長してしまうことがあります。

QTが延長しすぎてしまうと、不整脈が起きることがあります。

抗精神病薬の量が多い場合や長期に内服している場合は、心電図を実施し、QTの延長の有無を確認します。QTが延長している場合は、程度にもよりますが、基本はお薬を減量したり、他の薬剤に変更することが多いです。


★持続性注射剤以外の注射剤について★

デポ剤以外にも抗精神病薬には注射剤があります。基本的には病状が不安定である場合に、その日の状態を安定させる目的で使用します。入院中以外の方に使用する機会はあまりありません。また、効果もデポ剤とは異なり、持続しても1日以内です。

*注射剤の種類

抗精神病薬の中で、ジプレキサ、サイレース、トロペロン、コントミン、ヒルナミンが内服薬に加え、注射剤もある薬剤です。

一般名商品名定型・非定型用法添付文書上の適応病名
オランザピン筋注用ジプレキサ筋注用非定型筋肉内注射(1日2回まで)統合失調症
ハロペリドール注射液セレネース注、ハロペリドール注定型1日1~2回筋肉内又は静脈内注射統合失調症、
躁病
チミペロン注射液トロペロン注定型1日1~2回筋肉内又は静脈内注射統合失調症、
躁病
クロルプロマジン塩酸塩注射液コントミン筋注定型筋肉内に緩徐に注射統合失調症、
躁病、神経症における不安・緊張・抑うつ、
悪心・嘔吐、吃逆
破傷風に伴う痙攣、
麻酔前投薬、
人工冬眠、
催眠・鎮静・鎮痛剤の効力増強
レボメプロマジン塩酸塩注射液ヒルナミン筋注定型筋肉内注射
統合失調症、躁病、うつ病における不安・緊張。

注射剤はその医療機関のやり方であったり、その先生の好みなどもあり、使用する注射剤が異なる場合もあります。私が勤務していた、大学病院や県立病院では、ジプレキサ(オランザピン)やセレネース(ハロペリドール)を使用することが多く、コントミン(クロルプロマジン)やヒルナミン(レボメプロマジン)の注射を使用することはあまりありませんでした。


★副作用について★

今回紹介している注射剤は全て抗精神病薬のため、持効性注射剤と同様です。ただし、これらの注射剤は、投与して、すぐに効果が発現されるため、副作用も早く出現する場合があります。

眠気、だるさや錐体外路症状、悪性症候群などには特に注意が必要です。


★テープ剤について★

抗精神病薬には錠剤、散剤、液剤、注射剤などがありますが、1種類だけテープ剤があります。

ロナセンのテープ剤になります。

内服薬ではどうしても飲み忘れのリスクがありますが、テープ剤の方が貼り忘れに気づきやすいことがメリットでしょうか。

また、ロナセンの錠剤は1日2回に分けて内服をしないといけませんが、テープ剤は1日1回でよいため、患者さんの負担も少なくなることが期待できます。

ロナセンテープは20mg、30mg、40mgの3種類があります。それぞれの大きさは以下の通りになります。

ロナセンテープ添付文書より

一般名商品名用法添付文書上の適応病名
ブロナンセリン経皮吸収型製剤ロナセンテープ1日1回(胸部、腹部、背部のいずれかに貼付し、24時間ごとに張り替える)統合失調症

★副作用について★

テープ剤ですので、貼った部分のかゆみ、発疹などのリスクがあることが、内服薬との違いです。刺激を避けるため、毎回異なる場所に貼っていただいた方が皮膚に関する副作用が発現しにくいです。

湿布みたいな感じで、ロナセンテープを半分に切るなどはしないようにしてください。

それ以外の副作用は他の抗精神病薬と同様です。持効性抗精神病薬に記載した副作用の記載をご覧ください。


以上、統合失調症で使用する抗精神病薬の注射剤、テープ剤の副作用について説明させていただきました。

次回は、注意欠如多動症に使用する薬剤の副作用について説明させていただきたいと思います。


参考文献

ロナセンテープ20mg/テープ30mg/テープ40mg:添付文書|住友ファーマ 医療関係者向け (sumitomo-pharma.jp)

ジェネラリストのための向精神薬の使い方”作用機序から考える”向精神薬の使い分け

日本医事新報社

専門医のための臨床精神神経薬理学テキスト

日本臨床精神神経薬理学会専門医制度委員会 星和書店

ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版

メディカル・サインエンス・インターナショナル

<特集>気づきにくい向精神薬の副作用精神科治療学 34巻5号

星和書店

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