精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用 その8

  • 2023.05.07

睡眠薬の副作用について


みなさんこんにちは。

三鷹駅こころえがおクリニックの山田佳幸です。 当院はJR中央線 三鷹駅南口徒歩3分の東京都多摩地域にある精神科・心療内科のクリニックです。三鷹市、武蔵野市の方をはじめ、周辺の市区町村の方や、神奈川県、埼玉県などから来院を頂いています。


花粉がようやく収まってきました。

話がずれてしまいますが、医師は自分に必要な薬を処方することはできません。保険診療をする際に決まっているルールだからです。

ですので、花粉症の時や、それ以外でも身体の不調がある際は、みなさんと同様に、普通に病院やクリニックを受診し、検査をしてもらったり、薬を出してもらったりします。

でも、同業者とわかると受診先の先生が変に気を使ってしまうかな?と思い、医師であることを自分からは伝えずに診察をしていただいています。

でも診察の手順や医療機関の備品、雰囲気など、こんなふうに工夫をしているんだ~とかいろんなところが気になっちゃいますね。


では、本題に入ります。今回は睡眠薬についてです。

前回は注意欠如多動症(ADHD)で使用する薬剤の副作用についてを説明させていただきました。

詳しくは前回のブログをご覧ください。

精神科・心療内科で使用する薬剤の副作用 その7 – 三鷹駅こころえがおクリニック ブログ (kokoro-egao.net)


今回は睡眠薬について説明させていただきたいと思います。

睡眠薬は大きく分けると以下の5種類があります。

・バルビツール酸系

・ベンゾジアゼピン系

・非ベンゾジアゼピン系

・メラトニン受容体作動薬

・オレキシン受容体拮抗薬


睡眠薬として使用している薬剤はこれらの系統のどれかに属します。

上記以外にも適応外のため、詳細は記載しませんが、眠気が出やすい抗うつ薬、抗精神病薬などを睡眠薬の代わりに使用する場合もあります。

ちなみに、眠れないときにお酒を飲むことが日本では海外に比べ多い傾向があるようです。

お酒は眠りが浅くなり、熟眠感がなくなります。結果不眠が悪化してしまうので、眠れないからと言って飲酒することはおやめください。できれば精神科や心療内科に受診することを検討ください。


*副作用についてですが、内服すると必ず副作用が出るという訳ではありません。過度に心配なさらないでください。また、全ての副作用を記載しているわけではありません。比較的認めやすい副作用、注意すべき副作用を中心に記載しておりますので、その点もご了承ください。

*副作用は飲み始め、容量変更時、急な中断などのタイミングが特に注意が必要です。お薬が開始となった際、上記の時期は気を付けください。何か変化や心配な点がある場合は遠慮なくご質問ください。

*副作用が出現した際は、原則、減量や中止をします。ただ、飲み続けることで副作用が目立たなくなる場合もあります。また、他の薬剤に変更が難しい場合は副作用止めなどを内服し、継続していただくこともあります。こちらも心配なことなどがある場合はご相談ください。


それではお薬の副作用について説明してゆきます。


★バルビツール酸系★

バルビツール酸系の薬剤は昔からある薬剤です。

他の薬剤に比べて、耐性(次第に薬に体が慣れてしまい、効きにくくなることです)や依存性(長期間使用し続けることで体が睡眠薬になれ、薬をやめると眠れなくなることです)に注意が必要で、頻度は多くないですが、呼吸抑制、重篤な不整脈など、生命にかかわるような重篤な副作用が出現するリスクがあります。

副作用や依存性、耐性の問題から、現在は第1選択として使用することはありません。私は精神科医になりたての頃には処方することはありましたが、ここしばらくは処方したことはありません。メリットよりもデメリットが大きいからです(意識して処方しないようにしています)。おそらく、他の医療機関でも新規に処方されることはほとんどないと思われます。

なので、薬剤名はあえて記載しません。ご了承ください。


★ベンゾジアゼピン系★

1960年頃から使用されるようになった睡眠薬です。

ベンゾジアゼピンはフルネームでいうと長くて言いにくいので、BZP系とかベンゾなどと略したりします。

この薬剤は、脳のGABA(γ-aminobutyric acid)という物質の働きを高めることで、脳の興奮を鎮め、睡眠を促す薬剤です。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は睡眠に対する効果に加えて、筋弛緩作用(筋緊張を和らげる)、不安や緊張を和らげる、抗けいれん作用(けいれんが起こりにくくなる)などの作用があります。

バルビツール酸系と比較すると格段に安全性が高いため、非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬が登場するまでは不眠の際に使用される睡眠薬の中では、第1選択薬として使用されていました。もちろん現在もよく使用されています。

ただし、バルビツール酸系より安全性は高いのですが、依存性や耐性が生じる可能性はゼロでないため、必要最低限の量や種類で処方を心がけています。


★ベンゾジアゼピン系睡眠薬の代表的な副作用

*ふらつき、過鎮静(効きすぎる)、健忘

・筋弛緩作用があるため、ふらつきが起きることがあります。夜トイレに起きた時などは特に注意が必要です。

・薬剤の効果が翌朝まで続き、朝起きれなくなることや、日中にも眠気が残ることもあります。これらは比較的持続時間が長い睡眠薬の方が短時間の睡眠薬(いわゆる睡眠導入剤)より出現する確率は高いのですが、短時間の薬剤でも生じることがあるため、注意が必要です。

・また、内服後に健忘(記憶障害)が生じることがあります。健忘はどちらかというと長時間型の睡眠薬よりも短時間型の睡眠薬の方が出現する確率が高いです。睡眠薬内服後、LINEで友達にメッセージを送っていた、お菓子を食べていたなど、本人は記憶がないにも関わらず、行動をしていることなどがあります。

これらが出現した際は、基本中止ないし、他の効果の弱い薬剤などに変更します。続けることでのデメリットが大きいからです。


*脱抑制、集中力低下、認知機能低下

脱抑制(アルコールで酔っぱらったような感じ)や、ボーっとすることがあるため、薬剤の効果が続いている間は集中力や認知機能の低下が起こることがあります。

これらが出た場合は、基本中止ないし、別の薬剤に変更します。


*依存性

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は抗うつ薬などと異なり、効果がすぐに出る薬剤です。しかし、継続すると徐々に体が慣れてしまい、効果が薄れることがあります。例えば1錠で効果が得られていた場合、2錠でないと効果が得られなくなります(耐性といいます)。

また、薬を飲まないと夜眠れず、薬を飲まないと、またつらい思いをしてしまうのでは?といった不安が生じ、夜眠れないことへの不安や、心配からなかなか薬が手放せなくなることもあります(精神的依存といいます)。

身体が薬のある状態で慣れていると、急に内服をやめたり、減量をすると身体症状がでることがあります(身体依存といいます)。反跳性不眠(離脱症状)といって、逆に眠れなくなることもあります。そのため、やめる際も、いきなりやめるのではなく、まずは減量するなどし、徐々にやめる準備をしてゆきます(どうしても急いで減量や中止をしないといけない際は、内服している量や種類などを総合して、患者さんと相談をしながら減量してゆきます)。

使用する際は漫然と使わない、時期や状態をみて減量する、他の薬剤に変更するなどする必要があります。

私の場合は、あまり急いで減らすよりも、ゆっくり、段階的に減量をし、やめる準備をしてゆくことを提案する場合が多いです。

他の薬剤に置き換えてゆく方法もありますが、うまくいかないと元々の睡眠薬と置き換える予定の睡眠薬の両方を飲むことになってしまうため、注意が必要です。

誰でもそうですが、できれば薬は飲みたくないものです。こっそり減量や中止する方もいますが、うまくいかないことが多いので、減量や中止をしたい場合は、必ず主治医の先生に相談をした上で行ってください。また、ネットなどの情報を鵜呑みにしないようにしてください。あくまでその方のやり方や感想なので、それがスタンダードな方法でない場合も多いからです。


*睡眠の質

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は浅い睡眠が増え、深い睡眠が減るため、睡眠の質が落ちることがあります。

これは難しいところです。相性の問題もあるので、変更した薬剤が必ずしもその方に合うとも限らないため、薬剤の変更はせず、経過を見ることがもあります。

また、生活リズムの見直しや、適度な運動、入浴中のマッサージ、入眠前のストレッチなど試してもらい、睡眠の質を上げる工夫もしてもらうこともあります。


*ベンゾジアゼピン系睡眠薬の種類*

(*ブログの下部に睡眠薬全ての表を作りましたので、名前のみ記載します)

一般名商品名
トリアゾラムハルシオン・トリアゾラム
エチゾラムデパス・エチゾラム 
ブロチゾラムレンドルミン・ブロチゾラム
ロルメタゼパムエバミール・ロラメット
リルマザホンリスミー  
フルニトラゼパム         サイレース・フルニトラゼパム
ニトラゼパムベンザリン・ネルボン・ニトラゼパム
エスタゾラムユーロジン・エスタゾラム
クアゼパムドラール・クアゼパム 
フルラゼパムダルメート
ハロキサゾラムソメリン

*デパスは睡眠薬として使用する場合はと抗不安薬として使用する場合があります。

*余談になりますが、上記の睡眠薬に加えて、エリミンという睡眠薬がありました。

エリミンは違法薬物を使用している人が好んで欲しがる悪評高い薬剤でした(赤い錠剤だったので、赤玉と呼ばれていたようです)。昔、埼玉の県立病院で働いていた頃、依存症専門の先生に教えてもらいました。

エミリンは2015年11月に製造中止となっております。


★非ベンゾジアゼピン系睡眠薬★

(3種類ある薬剤の製品名を英語表記した場合、Zが入っているため、Zドラッグと呼ばれることがあります)

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬はベンゾジアゼピン系睡眠薬をさらに改良した薬剤で、1980年代から使用されるようになった薬剤です。


*代表的な副作用

ベンゾジアゼピン系睡眠薬と比較すると、ふらつきや転倒のリスクや依存性、耐性のリスクはベンゾジアゼピン系睡眠薬と比較すると低いといわれています。

ただ、リスクがないわけではないため、ベンゾジアゼピン系睡眠薬同様に使用には注意が必要です。

また、アモバン、ルネスタの2種類は、苦味という変わった副作用がでることがあります。内服後、比較的早い時間に苦味が出る場合と、朝起きた際に苦味を感じる場合があります。

それ自体は体に害を及ぼす訳ではありません。時間経過とともに改善し、後遺症になることはないため、心配は不要ですが、苦味が気になる場合は中止し、他の薬剤に変更します。


*非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の種類

(*ページの下部に睡眠薬すべての表がありますので、名前だけ記載します)

一般名・英語名商品名
ゾピクロン   Zopicloneアモバン・ゾピクロン    
ゾルピデム  Zolpidemマイスリー・ゾルピデム
エスゾピクロン Eszopicloneルネスタ・エスゾピクロン

★メラトニン受容体作動薬★

メラトニン受容体作動薬は2010年に発売された薬剤です。現在はロゼレムという薬剤と小児期に限定で使用できるメラトベル(2020年発売)という2種類の薬剤があります。

*メラトベルは小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善の目的に使用されます。16歳以上の方に新規に処方することはできません(16歳までに内服していた方が、継続で内服することはできます)。

メラトニンは人間の脳内の視交叉上核という部位にある、脳の松果体のホルモンのメラトニンの受容体に結合します。その結果、催眠作用や睡眠リズムの調整を調節する効果が得られるとされています。

メラトニンは夜20時頃から分泌され始めます。その後朝になり、太陽の光を浴びると分泌されなくなります。

メラトニン受容体作動薬はベンゾジアゼピン系睡眠薬と異なり、体内時計に働きかけることで覚醒と睡眠を切り替え、自然に近い生理的睡眠を誘導する作用があります。


*代表的な副作用

・傾眠、頭痛、倦怠感などが生じることがあります。一方で、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と異なり、依存性が極めて少ない薬剤です。

傾眠や倦怠感は薬が効きすぎた場合、起床後も眠気やだるさがのこることがあるります。

頭痛に関しては、メラトニン受容体を刺激することで生じる副作用です。

それぞれの副作用が出た際は、軽度であれば様子をみます。時間経過と共に軽減する場合があるからです。

改善が乏しい場合や副作用が強い場合は、中止ないし、他の薬剤に変更します。


*メラトニン受容体作動薬の種類

(*ページの下部に睡眠薬すべての表がありますので、名前だけ記載します)

一般名商品名
ラメルテオン ロゼレム・ラメルテオン
メラトニンメラトベル

★オレキシン受容体拮抗薬★

オレキシン受容体拮抗薬はこのブログ作成時点(2023年5月)で最も新しい作用の睡眠薬です。ベルソムラ(2014年発売)、デエビゴ(2020年)の2種類があります。

オレキシンは覚醒と睡眠を調節する神経伝達物質です。オレキシン受容体拮抗薬はそのオレキシンの働きを弱めることで、眠りを促します。


*オレキシン受容体拮抗薬の種類

(*ページの下部に睡眠薬すべての表がありますので、名前だけ記載します)

一般名商品名
スボレキサントベルソムラ    
レンボレキサントデエビゴ

*副作用

眠気(薬が効きすぎてしまうため)や頭痛、悪夢を見ることがあります。

悪夢に関しては、ベルソムラはレム睡眠を増加させます。夢はレム睡眠の時にみるといわれています。そのため夢が増え、悪夢となってしまうこともあります(デエビゴはレム睡眠に変化はありませんが、悪夢が出ることがあります)。一方で依存性はロゼレムと同様で極めて起こしにくい薬剤です。

副作用が出現した場合は、減量あるいはその薬剤を中止し、他の薬剤に変更することも検討します。

また、副作用ではありませんが、ベルソムラには以下の薬剤との併用はできません。

〇抗真菌薬

イトリゾール (一般名:イトラコナゾール)

ノクサフィル (一般名:ポサコナゾール)

ブイフェンド (一般名:ボリコナゾール)

〇抗生物質

クラリシッド (一般名:クラリスロマイシン)

〇抗HIV薬

ノービア   (一般名:リトナビル)

これらの薬剤の作用が強まるためです(併用禁忌薬剤)。それ以外にも併用する際は注意が必要な薬剤もあります。

デエビゴも併用に注意しなければいけない薬剤がありますが、併用禁忌薬剤はありません。


★代表的な睡眠薬一覧★


*注意点

・睡眠導入剤とは、一般的に寝つきをよくする作用が主作用である超短時間作用型睡眠薬、短時間作用型睡眠薬のことを言います。

・半減期(血中の薬物濃度が半減するまでに必要な時間)を見ると、こんなに薬の効果が続くの?と思われる方がいらっしゃると思いますが、あくまで血中濃度が半分になるまでに必要な時間です。必ずしも効果もこの時間までは半減しないという訳ではありません。多くの薬剤は朝になれば眠気(効果)は目立たなくなります。


以上、睡眠薬の副作用について説明しました。

次回は抗不安薬(いわゆる安定剤)について説明をしてゆきたいと思います。


https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1j27.pdf

重篤副作用疾患別対応マニュアル ベンゾジアゼピン受容体作動薬の治療薬依存(厚生労働労働省Hpより)

医療用医薬品検索 – データインデックス (data-index.co.jp)

医療用医薬品検索

専門医のための臨床精神神経薬理学テキスト

日本臨床精神神経薬理学会専門医制度委員会 星和書店

ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版

メディカル・サインエンス・インターナショナル

ジェネラリストのための向精神薬の使い方”作用機序から考える”向精神薬の使い分け

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皆様の心が少しでも笑顔になりますように。

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