注意欠如多動症(ADHD;Attention-deficit/hyperactivity disorder)とは
注意欠如多動症は注意欠如・多動性障害とも呼ばれ、注意力や多動性、衝動性のコントロールが苦手な疾患で、発達障害の中の一つです。
ADHDの特徴を持ちながらも、日常生活に大きな支障なく過ごされている方もいますが、一方で生きづらさを感じたり、トラブルを抱えている方も沢山いらっしゃいます。ADHDは生まれつきの脳の働き方の違いによって生じる特性や個性であるため、症状の程度は人により異なります。そのため、その方に合った対応や治療が必要となります。
以前は、ADHDの症状は成人になると軽快すると言われていました。しかし、近年の追跡研究では、一定の割合で成人後もADHDの症状が続くことがわかっています。高校ぐらいまでは大きな問題がなかった方でも、進学や就職後に隠れていたADHD症状が目立つようになり、精神科受診に至る場合や、成人になりTVやインターネットでADHDのことを知り受診される方など、様々な方が受診されます。
- 当クリニックでは成人の発達障害(注意欠如多動症、自閉スペクトラム症)の方の診断や治療に加え、小児科・児童精神科に通院されている、療育が必要な方や発達障害(注意欠如多動症、自閉スペクトラム症)の方の成人精神科への移行(トランジション)にも力を入れております。
手帳などをお持ちで、成人後の通院先が見つからないなど、お困りの場合はご相談ください。
注意欠如多動症の原因
原因はまだ明らかになっておりませんが、生まれ持った脳の微細な機能異常が元で起こると考えられています。ADHDは育て方や性格の問題によって起こるものではありません。
発症には複数の遺伝子の影響に加え、妊娠期間中の喫煙やアルコールの問題、ある種の化学物質など、様々な誘因が影響し、発症のリスクが高まるのではないかと推測されています。また、脳内の神経伝達物質のうち、ドパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどの働きが低下している為に、脳内のネットワークが乱れ、報酬系の障害(待つべき時に待てない)、実行系の障害(順序立てて行動ができない)などが影響し、ADHDの症状が表れるのではないかと考えられています。
注意欠如多動症の症状
ADHDの特徴は、「不注意(注意を持続することができない)」、「多動性(落ち着きがなく、じっとしていられない)」、「衝動性(思ったことをすぐ口にする、行動する)」があります。
具体的な症状は以下の通りです。
- 不注意
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- 注意散漫、仕事に集中できない
- ケアレスミス、同じミスを繰り返す
- 期限のある仕事や課題などを仕上げることができない
- 話を聞いていない様に見える
- 指示されたことをすぐ忘れてしまう
- 仕事や生活に必要なものを忘れたり、なくしたりする
- 時間や約束を守れずにトラブルになる
- 部屋やデスクが散らかっている
- 多動性
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- 貧乏ゆすりやそわそわとした態度が目立つ
- 落ち着いて食事や会話ができない
- じっとしていなければならない場面が苦手
- 衝動性
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- 相手の話が終わる前に、喋ってしまう
- 列に並ぶことや、長時間待つことが苦手
- すぐにイライラしてしまう
- 衝動買いが多い
- 全ての方に上記の症状が当てはまるわけではありません。症状の有無、程度は人により様々です。
これらの症状のため、周囲から失敗を責められることや厳しい指導を受けることが多くなると、うつ状態や対人緊張、不安などが強まり、日常生活や社会生活に支障をきたすようになります(二次障害※)。
また、ADHDはうつ病、双極性障害、不安症、自閉スペクトラム症など、他の精神疾患の合併率の高さが注目されています。合併する疾患の症状の方が目立っていると、ADHDの症状が分かりにくく、治療が遅れてしまうこともあるため、注意が必要です。
- 二次障害:発達障害のある方は、その特性からストレスを感じやすく、うつ状態や不安、緊張感、他の精神疾患の合併や引きこもりなど、社会での不適応を引き起こしやすい傾向があるといわれています。発達障害の特性が影響し、二次的に様々な症状が生じることを二次障害といいます。
注意欠如多動症の診断
成人のADHDは成長過程の中で様々な要素が積み重なってゆくため、子ども以上に診断や判断が難しい場合も少なくありません。そのため、本人や可能なら家族の方からもお話しをおうかがいし、診断する上での参考にさせていただいております。
また、ADHDの症状が幼少よりあったか、複数の場面で症状を認めるか、他の精神疾患や身体疾患による影響がないかなども診断をする上でのポイントになります。必要に応じて、知能検査(WAIS-Ⅳ)などの心理検査などを行い、最終的に診断を確定します。
注意欠如多動症の治療について
治療の本質は、ADHDの特性とうまく付き合い、生活をスムーズに送る方法を身につけることです。そのために、心理社会的療法を行い、必要に応じて薬物療法を組み合わせてゆきます。二次障害の発生を防ぐことも非常に大切です。
心理社会的療法について
ADHDの症状に対して適切な援助をする、あるいはADHDの方自らが、状況に応じて適切な行動が取れるようにサポートしてゆきます。その為には自分の特性を知ることに加え、環境調整を行うことも検討します。また、ご本人がより力を発揮できるように支援する側が特性を理解した上でサポートを行うことも大切なポイントです。
- 環境調整のポイント
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- 気が散りにくい場所で作業や仕事をする、人の視線が気になる場合は視線を遮るためについたてを立てるなど、職場や生活環境の見直を検討する
- メモに残す習慣、スマホなどのリマインダー機能の活用
- 指示は短く、簡潔に出してもらう
- 指示は口頭ではなく、記載をしてもらうなどの工夫をしてもらう
- 支援のポイント
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- 強みを伸ばし、生活の工夫で苦手な部分をカバーすることを目標にする
- 集中しているときは余計な雑談を避け、注意が逸れにくいようにする
- 一定水準のミスは必ず起きると前提し、ミスを必要以上に咎めない
- 複数のタスクを一度にお願いすることは避ける
- 時間管理が苦手なため、周囲がサポートすることも検討する
- 外来受診日や時間を間違えても責めない、時間に遅れても責めない
- 外来受診が不定期になっても責めない
薬物治療について
心理社会的治療を行った上でも、生活に支障がある場合や二次障害が強い場合は薬物療法を検討します。
現在日本では、4種類のADHD治療薬があります。ADHD治療薬を併用することで、不注意、多動性、衝動性といった、ADHDの中核症状を軽減し、生活の支障を和らげることが期待できます。
ADHDの特性がある方は、その特性から成功をする体験が少ないため、自分に自信を持てない人が多く、また、人と接する際に過剰に不安、緊張を感じることあります。
ADHD治療薬の直接的な効果ではありませんが、症状が軽減した状況が続くことで失敗や周囲から叱られることなどが減るため、結果的に自信をもって行動ができるようになります。
ADHD治療薬には以下の薬剤があります。
・中枢神経刺激剤:コンサータ®(メチルフェニデート)
ビバンセ®(リスデキサンフェタミン)
・非中枢刺激剤 :ストラテラ®(アトモキセチン)
インチュニブ®(グアンファシン)
それぞれのADHD治療薬処方の注意点、効果、特徴、副作用などは「ADHD治療薬の処方を希望される方へ」 をご覧ください。